『打ち水をしたペンギン』
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。
おいらはいつものようにアホウドリ君からもらった翼で空の散歩を楽しんでいると、ツバメ君とばったり出くわした。
「アデリー君、久しぶりだね」
「ホントだね。元気にしてた?」
おいらは昔からの友達のツバメ君とおしゃべりをはじめたんだ。するとツバメ君が、
「今、ボクは自分のヒナを育てているんだよ」
っていったんだ。
「ヘ〜?!!おめでとう!そのヒナはいつ卵からかえったの?」
「ついこのあいだだよ…でも、最近ボクの巣のそばの公園で毎晩のようにカラスやウミネコたちがたくさん集まってイベントを開いているんだよ。それがとてつもなくやかましくてね…ヒナたちがこわがるし、夜通しギャーギャー騒いでるから、夜ねむれないんだよ」
「それは困ったものだね…よし、おいらがいってイベントをやめてもらうようにカラスやウミネコたちにかけあってみるよ」
ってなことで、おいらはその夜イベントが開催されるっていう『二丁目あけぼの公園』へむかったんだ。その公園は人間たちが住む大都会のまんまんなかにあった。もうすでに大勢のカラスやウミネコ、カワセミたちが集まっていた。公園のジャングルジムのてっぺんにとまったカラスが叫びだした。
「チェケダ〜!!今夜も熱帯夜!サタデーナイト、フィーバー!フィーバー!!今宵もヒップホップ、RアンドBからテクノまで、なんでもありだ!みんな楽しんでいこうぜ!!」
“サタデーナイト”だなんて、いったいいつの時代のことをやっているんだか?って考えていると、さっきのカラスが、
「おや、今夜はものすごくめずらしいお客さんがおいでだよ!な、なんと南極のペンギン君が我が二丁目あけぼの公園においでなすった!!」
っていった。するとみんなの視線がおいらのところに。だからおいらはいってやったんだ。
「みんな!きいておくれ…こんなに毎晩、毎晩大騒ぎして、ツバメ君が夜ねむれないって困っているんだよ!」
おいらのいうことにはおかまいなしっていう感じで、そばにいたウミネコが、
「キミは好きなジャンルとかアーティストとかっているのかい?ここはクラブだよ!」
ってきいたんだ。
「おいらはペンギンだから…」
「ペンギンだから?」
「やっぱりペンギン音頭!」
っておいらがこたえると、ジャングルジムのカラスがヘッドホン片手に、
「音頭って…ずいぶんクラシックだね!さっきはおれたち“なんでもあり”とはいったけど…まあ!いいか!今宵はユーロビートと民謡の融合だあ!!」
ってレコードをかけだした。みんな音楽に合わせていっせいに踊りだした。となりにいたカラスが、
「せっかくだからペンギン君、キミも踊りなよ!」
っていったんだ。
「おいらはペンギン音頭じゃないと踊れないよ!ってそうじゃなくて、ツバメ君が…どうしておいらはひとりで“のりつっこみ”をしなくちゃならないんだあ!」
「なに、わけのわからないことをいってるんだよ!よく、きいてごらんよ。キミのリクエスト通りペンギン音頭がかかっているよ!」
すごくテンポが速くてアレンジされてはいたけれど、確かにペンギン音頭が流れていた。
「こんなレコードいったいどこで手に入れたの?そんなことよりツバメ君のヒナが…」
おいらは大勢のウミネコやカラスたちに押されて、すべり台の上へ上がっちゃったんだ。
「さあ!お手本を見せてくれよ!」
「お手本って?」
「ダンスの手本だよ!」
おいらはみんなにのせられてペンギン音頭を音楽に合わせて今まで踊ったことのない恐ろしく速いスピードで踊ったんだ。これがけっこう楽しくて、ついツバメ君のことなんか忘れて夢中になっちゃったんだ。しばらく、みんなで踊っていると、二丁目あけぼの公園にマカロニ君がやってきた。マカロニ君はおいらとおんなじようにイベントをやめさせようとかけつけたんだって。だからマカロニ君はおいらのそばによってきて、
「アデリー君、何やっているんだよ!キミはツバメ君に頼まれてこのイベントをやめさせにここにきたんじゃなかったの?」
っていった。
「あっと!そうだった!けど、こうして踊っていると楽しいよ!」
「どうしちゃったんだよ!キミは?」
ってマカロニ君はいっていたんだけれどカワセミたちに引っぱられていったんだ。そうしてジャングルジムのてっぺんへ…。カラスが、
「髪の長いペンギン君、キミはDJをやってみないか?」
っていったんだ。
「ボクはそんなことをしにきたわけじゃないから…」
「まあ、まあ、ちょっとでいいからターンテーブルをさわってごらんよ!」
マカロニ君は誰かに押されたひょうしにターンテーブルって呼ばれているレコード・プレーヤーの手前においてあったミキサーに手じゃなくてフリッパーをついた。
「おや!今のはオレにも思いつかない“ぶっこみ”だ。キミは筋がいいよ。DJの素質あり、と見た。名前はなんていうの?」
ってマカロニ君はカラスにほめられたんだ。
「ボクはマカロニペンギン」
「みんな、きいてくれ!今宵はDJマカロニのデビューだ!」
ってカラスが叫んだ。なんとマカロニ君は調子にのって“まわし”はじめたんだよ。そんなこんなでおいらもマカロニ君もカラスやウミネコ、カワセミたちといっしょになって夜通しさわいじゃった。
あくる日。おいらはマカロニ君と反省会を開いたんだ。
「マカロニ君、キミもツバメ君に頼まれたの?」
「そうだよ」
「それにしても昨日はさんざんだったよね」
「イベントをやめさせるどころじゃなかったよ」
「夜中になってもずっと暑いから、熱気が冷めないんだよ」
「人間たちが密集している大都会では、どうしても暑くなるんだ。都会はそのまわりよりも冷めにくくなって、都市風なんていう風が吹いたり、大雨が降りやすくなってすぐ洪水を引き起こしたりするんだよ。天気や自然、生態系がおかしなことになっちゃうんだ。だからそこに住む生き物も変になっちゃうのかもしれない。せっかく、カワセミ君たちが住める環境が整っても、まだまだ別の問題がのこっていたりおこったりするんだよ。人間たちは便利さを追い求めているうちに異常気象や洪水なんていう“不便さ”もいっしょにしょいこんでいることになかなか気がつかないんだ」
「人間ってさあ、あいもかわらずアンバランスなことをしているよね!それにしてもこのままじゃ、ツバメ君に顔向けできないよ。今夜こそイベントをなんとかしてやめさせないと…」
「作戦を立てようよ!」
「作戦?」
「まずボクらはノリノリの客をよそおうんだよ。そうしておいて機を見てイベントをひっちゃかめっちゃかにかきますんだよ!そうしてイベントをぶちこわすんだ。この作戦でいこう!!」
ってなことで反省会は終了して、夕方、おいらたちはふたたび二丁目あけぼの公園へと 出向いたんだ。今夜こそイベントをやめさせにね!
昨夜と同じようにジャングルジムのカラスが、
「チェケダ〜!!今夜も熱帯夜!サタデーナイト、じゃなくてサンデーナイト、フィーバー!フィーバー!!今宵もヒップホップ、から日本民謡まで、なんでもありだ!夜明けまでみんな楽しんでいこうぜ!!」
って叫んでいた。おいらとマカロニ君は作戦通りノリノリの客になりすました。マカロニ君は飛び入り参加のDJをやっていた。おいらはまわりのカワセミたちが引いちゃう?ほど激しくめちゃくちゃにおどりまくったんだ。するとなんの前ぶれもなしに二丁目あけぼの公園にフンボルトさんがあらわれた。とつぜん、フンボルトさんはバケツにくんだ水をおいらにぶっかけたんだ。
「あんた、なにやってんのよ!頭を冷やしなさい!あんたがだれよりもこの中で一番大はしゃぎして、ミイラ取りがミイラになってどうすんのよ…ツバメ君のことはいったいどうなったの?」
ってフンボルトさんはすごくおこってた。
「これは作戦で…」
「いいわけなんてききたくないわ!あら、あんたはともかく、マカロニさんまで…でも、マカロニさんたらDJなんかやって、サラサラの髪を振り乱して、イキな選曲、絶妙な“つなぎ”そして“ループ”。かっこいいわ!キャー!!マカロニさ〜ん、がんばって!」
「どうして、おいらはともかくなの?」
フンボルトさんがマカロニ君にキャーキャー声援をおくっていると、いきなりウミネコがバケツでフンボルトさんに水をふっかけた。フンボルトさんは、
「やったわね!」
っておこったけれど、気がつくといつのまにか、ほかのウミネコやカラス、カワセミたちもみんなが水をかけあっていたんだ。騒ぎはよけい大きくなっちゃった。そこへ王様ペンギンが公園にやってきた。ツバメ君をつれてね。王様は、
「このさわぎはいったいどうしたっていうんだ!ツバメ君が困っているのがわからないのか?それにみんなビチョビチョで水びたしじゃないか!」
ってみんなに呼びかけた。つづけて、
「アデリーはともかく、フンボルトやマカロニまでいっしょになって!」
っていったんだ。
「…だから、王様まで…どうしておいらはともかくなの?」
するとさっきのウミネコがフンボルトさんにむかって、
「あの変なペンギンが、最初に水をかけたんだ」
っていった。
「だれが変ですって!!あたしはツバメ君が困ってるってきいたから…」
「こうして水をかけあうイベントもなかなかだねえ、いやあ、斬新ですばらしい!」
ってカラスがいうと、フンボルトさんが、
「かんちがいしないでよ!あたしは好きでそんなことしたわけじゃあ…」
って返したから、おいらが、
「これがホントの“水かけ論”!」
ってわってはいると、フンボルトさんに、
「もとはといえばあんたがもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのよ!!」
ってしかられちゃった。けれど、みんなの打ち水?のおかげで二丁目あけぼの公園の気温が多少下がったんだ。そのせいか?みんな熱からさめたのか?カラスもウミネコもカワセミたちも三々五々散っていった。なにはともあれこうしてイベントは無事に?終わったんだ。それから秋はすぐそこまできていたしね!
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。イベントをするときは、まわりに気を配ろうね!