『土を洗ったペンギン』

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。

 ある日、おいらはマカロニペンギン君のところへ遊びにいったんだ。すると、マカロニ君のところにコガタペンギン君がきていた。二羽はなにかしんこくな話しをしていたんだ。

「マカロニ君、どうしたの?」

「やあ!アデリー君、ハネジロちゃんがたいへんなことになっているんだって!」

「あのかわいらしいハネジロちゃんがかい?」

「そうなんですよ!私めのいとこのハネジロちゃんが近ごろぜんぜん姿を見せないんで、ハネジロちゃんの巣へいってみると『だれにも会わないんだから…もう、私にかまわないで!!』って、顔も会わせてくれないんですよ」

ってコガタペンギン君が説明した。おいらは気だてのいいハネジロペンギンちゃんが、いったいどうしたんだろうと思ったよ。マカロニ君が、

「ビクトリア先生にハネジロちゃんがどうして『もう私にかまわないで!!』なんていいだしたのか?きいてもらおうよ。ハネジロちゃんはビクトリア先生の教え子だろう。ハネジロちゃんも先生のいうことならきくんじゃないのかなあ」

っていたんだ。おいらもそれにさんせいして、

「それはいい考えだね!ビクトリア先生に頼もうよ」

っていうと、コガタペンギン君はしょんぼりして、

「いとこの私めよりもビクトリア先生の方が信頼されてるのかなあ…」

ってつぶやいたんだ。

「そうじゃないよ。おんなどうしの方が話しやすいってこともあるしさ」

 おいらたち三羽はビクトリアペンギン先生にハネジロちゃんのことをそうだんした。ビクトリア先生は、

「まあ、いつも気のやさしいハネジロちゃんがいったいどうしたんでしょう。私がきいてみるわ!」

って、いってくれたんだ。

 ビクトリア先生がハネジロちゃんの巣の中に入っていった。しばらくすると、ハネジロちゃんはビクトリア先生に連れられて巣からでてきた。ハネジロちゃんは顔に大きなマスクをしてすぐに病院へいったんだ。どうしてだれにも会わない!なんていいだしたのか?っていうと、顔に赤いぶつぶつができちゃって、それをだれにも見られたくなかったからなんだって。お医者さんのシュレーターペンギン先生はぬり薬をつけたけれど、あんまりよくならない。シュレーターペンギン先生によると、ハネジロちゃんの赤いぶつぶつは農薬アレルギーのせいだって。たぶん、巣のまわりの土にたくさんの農薬がしみこんでるんだろうって。そこでおいらとマカロニ君とコガタペンギン君でハネジロちゃんの巣のまわりの土を洗うことにしたんだ。

「土を洗うってどうやって洗えばいいんだろう?」

「洗うんだからやっぱりせ石けんがいるんじゃない?」

というこで、おいらたちは大きなたらいに水をはって石けんであわ立てた。それを地面にあけて畑を耕すようにクワで土を掘り返した。そこらじゅうがあわだらけになっちゃった。そこへフンボルトさんがハネジロちゃんのお見舞いにやってきた。フンボルトさんは巣のまわりがあわだらけになっているのを見て、

「あんたたち!いったいなにをしてるの!こんなにあわだらけにして!!」

っておいらたちにむかってどなったんだ。

「おいらたちは土を洗っていたんだよ。ハネジロちゃんが農薬アレルギーだっていうから…」

「土を洗うですって?こんなやり方で土にしみこんだ農薬を洗い流せるとホントに思ってるの!!まったく!どうやって石けんを洗い流すつもりなのよ!土にしみこんだ農薬をとるにはポプラの木を植えるといいんですって…ポプラは土の中の農薬を吸い取ってくれて、おまけに農薬を分解してくれるんだってよ…だからあたしはこうしてお見舞いにポプラの苗木を持ってきたのに!」

って、フンボルトさんはリュックにせおったポプラの苗木を見せた。

「ポプラを植えるだけでいいの?」

「そうよ!あんたのバカさかげんにはあきれるばかりだわ!…あら、あたしのマカロニさんじゃない!!マカロニさんまであわだらけになっちゃって…でもこういうのを水もしたたるいい男っていうのね!!ウフフフ…ますます好きになっちうわ!!」

ってフンボルトさんはマカロニ君にせまった。

「そっ、そんなことないよ!うわっ!たっ、助けてくれ〜い!」

「えっ、なにを助けてほしいの?」

「いやっ、そうじゃなくて…アデリー君何とかしてくれよ!」

ってマカロニ君にいわれたけれど、おいらはフンボルトさんを止めることができなかった。おいらとコガタペンギン君はフンボルトさんが持ってきてくれたポプラの苗木を植えたんだ。そのあいだフンボルトさんはハネジロちゃんのお見舞いそっちのけで、ずっとマカロニ君のことを追いかけてた。マカロニ君もたいへんだな!

 ポプラの苗木はグングン大きくなったよ。ひょっとしたら、おいらたちが土を洗うのに使った石けんがこやしになったのかもしれないな。いつしかハネジロちゃんの巣のまわりにはポプラの林ができたんだ。土にしみこんだ農薬はポプラに吸い取られてなくなっちゃった。ハネジロちゃんの農薬アレルギーが治って、顔のぶつぶつもなくなったんだ。また、元気な姿をコガタペンギン君やほかのみんなに見せてくれたんだよ。コガタペンギン君もハネジロちゃんも、それはもうよろこんでね…。

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。ハネジロちゃんの巣のまわりではあんまりいっぱい農薬をまかないでね!