虎・兎・龍

 

 町の大通りに一軒の小さな土産物屋がありました。店先には十二支の置物のうち、虎と兎それに龍が売れ残って並んでいました。

「龍さん!この中で一番強いのはやっぱりこのオレ様だよな」

と、虎がいいました。

「なにを!おいらの方が強いに決まってる 」

と、龍がいい返します。虎と龍にはさまれた兎がいいました。

「一番強いなんて意味ないわ。つまるところあたい達は売れ残りなのよ…」

「そうだよなあ。思えばあのノロマな牛さんがまっ先に売れちまうなんて」

と、虎が思い出しました。

「でも、早く売れてしまえば良いってもんでもないさ。誰に買われたか?ってことの方が大切だよ」

「その点、ひつじさんは良いよなあ。品の良い奥さんに買われていって」

「ありゃあ、きっと大金持ちだぞ!」

「それにくらべて、ヘビさんときたら最悪だったよねェ。ヘビみたいなじいさんに買われたんだから…あれこそ類は友を呼ぶっていうのかね」

と、虎と龍が話しあっていると、

「あたいはそのうち、白馬に乗った王子様に買われていくのよ!」

と、兎が口をはさみました。龍が、

「今時、白馬の王子なんてどこにいるんだか」

というと、兎が、

「なによ!ちゃんといるんだから!」

と、いいあっているところにリボンを付けた娘が友達と店先にやってきました。

「ねェ私たちって辰よね。イヤだわ、どうして辰年なのかしら…ハトの方が平和そうで良いのに…」

「そうよね。それに辰って十二支の中で、唯一現実にはいないのよね」

「そうだ!うちのお父さん阪神タイガースの大ファンなの。この虎の置物でも…」

と、いいながらリボンの娘は虎を買いました。このとき、龍はポロリと大粒の涙をこぼしました。それをとなりで見ていた兎は、

「あんた泣いてるの?ちょっといわれたくらいで…あんたは強い龍なんでしょ?強いドラゴンなんでしょ?」

と、元気付けようとしました。しかし龍は、

「おいらよりハトの方が良いなんてあんまりだ。そりゃあおいらだけホントはいないけど…そんな、そんな!!」

と、オイオイ泣き出す始末。そこへ今度は、おっとりとしたおばあさんがやってきました。

「おや、ちょうど兎と龍の置物があるよ。年子の孫達に買っていってやろうかしら?卯のお姉ちゃんと辰の弟に…」

 兎と龍はいっしょに、おばあさんに買われていきました。