スーパーヒーロー

 

銀行強盗

 

「博士!博士!大変で〜す」

と、臼井助手が息を切らせて研究室に入ってきました。研究室の中には得体の知れない機械がいっぱい置いてありました。その機械の陰から、

「何事かね、臼井君」

と白髪混じりで少し長めの髪をかき上げながら、眼鏡をかけた青山博士が出て来て言いました。

「銀行強盗ですよ。街の銀行が襲われているんですよ。犯人は今、銀行の中に拳銃を持って立てこもっているそうで、もう、街中そのことで大騒ぎなんです」

と、臼井助手。

「なに、銀行強盗だと。そうか、ついにこの日がやってきてしまったか。その銀行強盗事件、彼に解決してもらおう」

「博士、彼っていったい誰のことですか?」

「そう、彼とは、わしの永年の研究成果であるバイオ技術と放射線照射とで育て上げた、彼こそはこの世のスーパーヒーロー、その名は、スーパーうさぎぴょんぴょん丸だ〜」

と、青山博士が紹介するとスーパーうさぎぴょんぴょん丸がとなりの部屋からドアを開けてさっそうと登場してきました。

「え〜い、スーパーうさぎぴょんぴょん丸よ!!今、この街の銀行に立てこもっている強盗犯をつかまえてきなさい!」

と、青山博士が言うと、スーパーうさぎぴょんぴょん丸は、

「かしこまりました、博士」

と言うなり、スーパーうさぎぴょんぴょん丸はものすごい勢いで研究室を飛び出して行きました。臼井助手が、

「今のは何なのですか?」

と、博士に訊ねると、

「スーパーうさぎぴょんぴょん丸とは、この世のスーパーヒーローにするためにわしが育てた上げた史上最強のうさぎで、聴力および、走ることや飛び跳ねることなどの運動能力はうさぎなみで、知能は人間をも上回るスーパーうさぎなのだ」

と、青山博士は臼井助手に説明しました。

「博士、いつの間にそんなことをやっていたんですか?バイオ技術や放射線照射だなんて、博士の専門は天文学でしょう」

「臼井君!これからの天文学者は天文学だけやっていれば良いというもんじゃあないんだよ。これからの天文学者は他の技術も・・・」

と、青山博士が言いかけているところに、スーパーうさぎぴょんぴょん丸が研究室にまい戻ってきました。

「おや、もう強盗犯をつかまえて戻ってきたのかな?えらいぞ!それでこそこの世のスーパーヒーローにするためにわしが育てたスーパーうさぎだ!!」

と青山博士がスーパーうさぎぴょんぴょん丸に向かって叫ぶと、スーパーうさぎぴょんぴょん丸は、

「銀行ってどこにあるんだっけ?」

と・・・。

 臼井助手があわててスーパーうさぎぴょんぴょん丸に銀行へ行く道順を教えてやると、再びスーパーうさぎぴょんぴょん丸はものすごい勢いで研究室を出ていきました。臼井助手が、

「なんか頼りないなあ。あんなので本当に銀行強盗犯をつかまえることができるんですか?博士」

と、訊きました。

「まあ、ちょっとおっちょこちょいなところがあるようだが、スーパーうさぎであることには変わりはない。きっと大丈夫じゃろう」

と、青山博士はこたえました。

「本当に大丈夫かなあ?あんなおっちょこちょいで・・・まあ、ペットなんかも飼い主に似るって言うから仕方がないかも・・・」

と、臼井助手が独り言を言いかけると、すかさず青山博士が言いました。

「臼井君、何か言ったかね?」   

「いや、別に・・・」

「それにしてもこんなところで油を売っていてもしようがない。わしらも銀行強盗の現場まで行って、スーパーうさぎぴょんぴょん丸の活躍を、この世のスーパーヒーローになるべく記念すべき第一歩をこの目でしかとみるのだ〜あ。臼井君!銀行へさっそくいくぞ!!」

と、青山博士と臼井助手はスーパーうさぎぴょんぴょん丸の後を追いました。

 

 青山博士と臼井助手が銀行にたどり着くと、銀行の周りはパトカーやらやじうまやらで大変な騒ぎになっていました。スーパーうさぎぴょんぴょん丸は警察の人たちに向かって何か言っています。

「みなさん!私が来たからにはもう安心してください。私は正義の味方、かの有名な青山博士が育ててくれた、スーパーうさぎぴょんぴょん丸で〜す。この銀行強盗事件、私がすみやかに解決して見せましょう」

 それを聞いていた警官の一人が赤羽警部に言いました。

「警部、へんなのがあらわれましたよ」

この銀行強盗事件担当の赤羽警部は、

「まったく、銀行強盗だけでも大変だって言うのに・・・」

といいながら、メガフォンを通して、

「スーパーうさぎだかなんだ知らんが、そこの君!犯人は拳銃を持っている。そこにいたら危ないからすぐに避難して」

と、スーパーうさぎぴょんぴょん丸に呼びかけました。

「危ないだって?私の辞書に”危ない”という文字はないのです!私は銃弾よりも早く走れるから、たとえ強盗犯が私に向けて銃を撃ってきてもその弾に当たることはないのだよ、ははははは・・・・・・」

と、スーパーうさぎぴょんぴょん丸は笑い出しました。それを聞いた臼井助手が青山博士に言いました。

「すごい自信ですねー。本当に弾よりも速く走れるのですか?博士!」

「いやあ、そんな風に育てた覚えはないんだが、当の本人がそういってるんだから、きっとそうなんだろう・・・多分」

「えっ、じゃあ、ぴょんぴょん丸は勝手な自分の思いこみで言っているのかもしれないじゃないですか。確かぴょんぴょん丸の運動能力は普通のうさぎ並でしたよねえ。普通のうさぎは拳銃の弾なんかよりも早く走れませんよ!!」

「それもそうだな。お〜い!スーパーうさぎぴょんぴょん丸よ!おまえは拳銃の弾よりも速く走れる分けないんだぞ。気を付けろよー」

と、青山博士は大声でスーパーうさぎぴょんぴょん丸に注意しました。

「そんなのうそだあ!博士!言ったじゃないですか。おまえは弾よりも速く走れるこの世のヒーロー、スーパーうさぎだ!って」

「つまり、それはあのう・・・」

と、青山博士は言葉を詰まらせながら続けて、

「あれはたとえばの話だ。おまえの運動能力はふつうのうさぎなみだ!」

と、吐き捨てるように言いました。その青山博士の言葉を聞いたスーパーうさぎぴょんぴょん丸はそんなあ、と思いました。すると、パーンと、銀行の中から一発の銃声が鳴り響きました。スーパーうさぎぴょんぴょん丸の顔色が急に青くなり、いちもくさんに青山博士のところに逃げ込みました。そして、

「博士!ボクまだ死にたくないです!」

と、スーパーうさぎぴょんぴょん丸は青山博士に泣きつきました。青山博士は、

「よし、よし、わかったそれならうちへ帰るとしよう」

と、言って青山博士とスーパーうさぎぴょんぴょん丸が帰りかけると、近くにいたやじうまのひとりが、

「正義の味方だなんて・・・笑わせるよな。青山博士が育てたものだって言うからはじめかろくなものじゃないと思ってたけれど・・・」

と、言いました。これを聞いた青山博士は手のひらを返したように、

「スーパーうさぎぴょんぴょん丸よ!今すぐに銀行強盗犯をつかまえてきなさい!!」

と手荒く言うと、スーパーうさぎぴょんぴょん丸は、

「いやですよ!けがでもしたら大変です」

といやがりました。しかし青山博士は、

「なにを言っているのかね!スーパーうさぎぴょんぴょん丸よ!あれはちょうど7年前の冬の寒い日だった・・・橋のたもとに捨てられているおまえを拾い上げてわしが手塩にかけておまえをこの世のスーパーヒーローにすべくスーパーうさぎに育てたんだぞ。あの冬の日、もしわしがおまえを拾ってやらなかったら、幼いおまえは凍えて死んでいたかもしれないんだぞ。そう、わしはおまえの親も同然、生みの親以上の存在のわしの顔にきさま、泥を塗るつもりか!7年間の恩をおまえは忘れたというのかー!!」

と、いいました。臼井助手が

「そんなこと言ったって、・・・ぴょんぴょん丸がかわいそうですよ」

と、口をはさみましたが、これにたいして青山博士は、

「これはわしとスーパーうさぎぴょんぴょん丸との親子の間の問題なんじゃ。他人は口出ししないでくれ〜。え〜い何をそんなところでグズグズしておるんだ!!スーパーうさぎぴょんぴょん丸よ、おまえはわしが育てたスーパーうさぎなんだぞ!この世のスーパーヒーローになるんだから、早く銀行強盗をつかまえてこい!!」

と、スーパーうさぎぴょんぴょん丸の尻を蹴飛ばしました。しぶしぶスーパーうさぎぴょんぴょん丸は銀行の入り口の方へいきました。臼井助手が、

「ぴょんぴょん丸、かわいそうに・・・目を真っ赤にして泣いてましたよ」

というと、青山博士は、

「うるさい!もともとうさぎの目は赤いものだ」

と、言いました。スーパーうさぎぴょんぴょん丸は、強盗犯が立てこもっている銀行の中へ入っていきました。しばらくすると一発の銃声が銀行の中から鳴り響きました。スーパーうさぎぴょんぴょん丸は、銀行強盗に撃たれてしまいまいした。それから警察が一斉に銀行の中へ突入して、強盗犯を取り押さえました。

 青山博士はやじうまや報道関係の人たちでごったがえす中をかきわけて銀行の中に入ってみると、カウンターの前でうずくまっているスーパーうさぎぴょんぴょん丸を見つけました。青山博士は、

「お〜!なんてことだ!!スーパーうさぎぴょんぴょん丸!わしが悪かった。ムリを言ったわしがわるかった!!許しておくれ〜」

と、スーパーうさぎぴょんぴょん丸の前で泣きくずれました。その近くで赤羽警部が、

「銀行強盗事件、先ほど犯人逮捕、無事解決しました。え〜、被害は変なうさぎ1匹」

と、無線で本部と連絡を取っています。青山博士はスーパーうさぎぴょんぴょん丸を抱き上げると、

「うちに帰ろうな。スーパーうさぎぴょんぴょん丸、うちへ帰ろう。」

と、泣きながら銀行を後にしました。

 

町内運動会

 

 銀行強盗事件があってから半年がたちました。

「博士、今年もそろそろ町内運動会の季節がやってきましたね」

と、臼井助手が青山博士に言いました。

「フッフッフッ・・・、その通り。町内運動会が行われる時がとうとうやってきた。わが二丁目はここ数年、一丁目に優勝をさらわれて、苦い思いをしておるからなあ。このわしが二丁目の町会長になった今年は二丁目が町内運動会で必ず優勝するんだ」

と、青山博士。

「いつの間に町会長なんかになっていたんですか、博士?それにしてもすごい意気込みですね」

「そうとも、わしが町会長に任命されたとき、わしはみんなに宣言したんだ。もし、わが二丁目が今年の町内運動会で優勝できなかったら、この青山、死んでお詫びをいたします、とな・・・うわっはははは・・・」

と、青山博士は笑いました。

「博士、死んでお詫びだなんて!たかが町内運動会じゃないですか。大げさすぎますよ」

「何が大げさなものか、臼井君。運動会に優勝できなかった昨年、わしは外を歩くときはいつも下を向いて歩いていたんだ。それに比べて、去年優勝した一丁目の連中は大手を振って街中をかっ歩していた。こんなことが来年も続く様なら、わしは本気で死んでも良いと思ったんじゃ」

「そんな、それは博士一人の思い過ごしですよ・・・でも今年は何か、二丁目が優勝するための秘訣でもあるんですか?」

「よくぞ聞いてくれた臼井君!君もだてに長くわしのところで働いているわけではないんだね。そう、秘策はある!それはスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸を町内運動会に出場させるのだ」

「えっ!スーパーうさぎですって、ぴょんぴょん丸は半年前の銀行強盗事件の時に死んだはずじゃあなかったんですか?」

と、臼井助手は少し不思議に思いました。

「臼井君、君はまだまだ若いなあ。確かにあの時、スーパーうさぎぴょんぴょん丸の体は銀行強盗の銃弾を受けて、使いものにならなくなってしまった。しかし、人間の知能をも上回る脳には全く傷はなかったのだよ。そこでわしが永年研究してきた脳移植とロボット工学の技術の粋を集めて、この世のスーパーヒーローになるためにスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸として復活させたのだよ・・・今こそよみがえれ!!スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸」

と、青山博士が紹介すると、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸がとなりの部屋からドアを開けてさっそうと登場してきました。

「こっこれがぴょんぴょん丸ですか?」

と、臼井助手か訊ねると、青山博士は

「ちょっと見た目ではスーパーうさぎぴょんぴょん丸と違うところもあるが、精神的には前と一緒だ」

と、こたえました。

「それにしても博士!スーパーうさぎパートU・・・この長い名前、どうにかなりませんか?」

「・・・」

 青山博士は、

「いいか、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸よ!今年の町内運動会での二丁目の優勝目指して、今から特訓じゃ!!」

と、叫びました。

「かしこまりました、博士」

と、どこか機械的な声でスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸がこたえました。臼井助手が、

「町内運動会まであと10日もないんですよ!それにサイボーグがトレーニングしてどうなるんですか?」

と、言いました。

「なせばなる、なさねばならぬ、何事も!だ、よし特訓開始!!」

と、青山博士は号令をかけました。

 それからというもの、町内運動会までのあいだ、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は青山博士の指示通りに腕立てふせやうさぎとびなどのトレーニングをしました。

 

・・・そして町内運動会が行われる日がやってきました。

 一丁目の町会長さんが二丁目の町会長である青山博士に、

「今年もまたわが一丁目が優勝をいただきますよ・・・悪いがね」

と、嫌みったらしく言いました。

「いやいや今年こそは二丁目が優勝させてもらうよ。何せ、今年の二丁目は秘密兵器があるからね」

と、青山博士も負けてはいません。

「秘密兵器って、あの変な出来損ないのばけものうさぎのことですかな?確か半年ほど前に起きた銀行強盗事件の時に勝手に銀行の中に入り込んで強盗犯の拳銃に撃たれた、あの間抜けなうさぎさんですか?いやこれは面白い、あれが二丁目の秘密兵器だなんて、これは傑作だ!」

と、一丁目の町会長さんはバカにしました。

「あの時のスーパーうさぎぴょんぴょん丸とは違うんだよ、いまのスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は・・・」

と、青山博士が言っているところに、

「おやおや、何をそんなところで鼻息を荒くしているのかな?一丁目と二丁目の町会長さん方や」

と、三丁目の町会長さんがやってきました。

「これはこれは、三丁目の町会長さんじゃあないですか」

と、一丁目の町会長さん。

「今年こそは三丁目が優勝させてもらうよ」

「三丁目の町会長さん、何を言っているんだか・・・この長い町内運動会の歴史の中で一度も優勝したことがなくて、しかもいつもびりっけつの三丁目が、聞いてあきれるわ」

と、青山博士が言うと、三丁目の町会長さんが、

「今年の三丁目は今までとは一味違うんだよ!今年の三丁目はアメリカから助っ人を呼んできてあるんだ!!みんなに紹介しよう、北村君」

と、紹介すると、

「ハ〜イ、ワタシガ3日前ニフロリダカラ三丁目ニヤッテキタ、マッスル北村デ〜ス。日本ノミナサンドウカヨロシク!」

と、マッスル北村が自己紹介しました。

「とにかく、今年の町内運動会はいつになく盛り上がりそうですな!」

と、三丁目の町会長さんが言いました。町会長さんたちの話をわきで聞いていた臼井助手は、

「博士、ちょっとこれを見てくださいよ」

と、青山博士を呼んで新聞を差し出しました。

「この新聞、小金井スポーツって言うんですが、これの三面にマッスル北村のことが載ってるんですよ。いいですか」

と、言って臼井助手はマッスル北村に関する記事を青山博士に読んで聞かせ始めました。

「マッスル北村、35才、フロリダ生まれ、お父さんは日本人、お母さんはアメリカ人。マッスル北村はお金をもらえれば、世界中どこへでも飛んで行き、ありとあらゆる運動会に出場し、お金を出したチームを必ず優勝に導く・・・今までになんと7,000以上の運動会に出場し、そのすべてに優勝・・・だって。フリーで活躍する影の運動会優勝請負人の異名を持つ・・・ですって。これは大変なことになりましたよ」

「お金で優勝を買うというのか、三丁目は・・・フン、いかにも三丁目の町会長が考えそうなことだ。しかし、そのハツだか牛タンだかレバーだかしらんが北村とか言うアメリカ人がどうあがこうともスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸にはかなわんさ」

と、青山博士が言いました。そして、

「それにしても臼井君、君は普段いったいどんな新聞を読んでるのかね」

「・・・」

 

 いよいよ町内運動会の競技が始まりました。一番最初の種目は、100メートル徒競争です。二丁目のスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸と三丁目のマッスル北村は同じ組で走ることになりました。マッスル北村はスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸のことをじろじろ見て、

「日本ニハ珍シイ生キ物ガイルンデスネー。イッタイ、ナニモノナンデスカ?」

と、言ってきたので、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は、

「私はこの世のスーパーヒーローのスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸だ!」

と言い返しました。

「スーパーうさぎ・・・ウサギサンナンデスカ?アナタハ・・・アメリカデハ見タコトモナイタイプノウサギサンデスネ。デモ、ヨク見ルトナンダカカワイイデスネ」

と、マッスル北村はスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸にすり寄っていきました。すり寄られたスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は背筋が寒くなり、

「薄気味悪いからやめてくださいよ」

と言いましたが、マッスル北村は、

「オトモダチカラ始メマセンカ?」

と言い寄ってきました。

 走る番が回ってきました。スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は、マッスル北村にする寄られた時の後遺症か?スタートから出遅れてしまいました。が、そこはスーパーうさぎです。100メートルのなかほどでマッスル北村やほかの走者を追い抜くと、とうとう一番でゴールしました。負けたマッスル北村は、

「ワタシノハニ〜、最初ハコンモンデスネー」

と、負け惜しみを言いました。

 次の種目は玉入れです。これにもスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は出場しました。身の軽いスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は、あらかじめ青山博士から指示されていた通り、玉を投げ入れるかごのついた竿をよじ登り、かごの上に立って二丁目の人たちがかごめがけて投げてくる玉をうけとり、二丁目のかごに入れました。それから、となりの一丁目のかごに飛び移って自分の体でかごをふさいでしまいました。しかし、これは審判団に反則とされ、二丁目はこの種目は失格となってしまいました。スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸はみんなから、

「反則うさぎ!きたねえぞ!!」

と、やじられてしまいました。これを見ていた青山博士は、

「スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸よ、今はひたすらガマンする時じゃ、耐える時じゃ。次の種目にかけるのじゃ!」

と、励ましました。

「次の種目は何ですか?」

と、臼井助手が訊ねました。青山博士は、

「次は、わしがムリ言って今年から競技の中に入れさせた、棒高跳びだよ」

と、こたえました。それを聞いた臼井助手は驚いて言いました。

「え〜、町内運動会に棒高跳びですか?」

「そうじゃ、この種目ならばスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸でも勝てるだろう。なんなら、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸だけ、棒無しで跳ばせても良いかとも思ってるんだよ。何しろあいつはスーパーうさぎだから、走ったり、飛び跳ねたり、それから聴くことは人間よりも上だ。だからそのほかにもわしが今年からこの町内運動会に取り入れさせた種目のなかには、走り幅跳び、反復横飛び、それからスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸の聴力を生かせる、伝言ゲームやイントロクイズがある」

「運動会に伝言ゲームやイントロクイズですか?そんなの聞いたことがありませんよ」

「とにかく勝てばいいのだよ、勝てば・・・それに臼井君、これからの運動会の流れは、飛び跳ねることと聴くことだよ」

「そうかなあ?」

と、臼井助手は思いました。

 青山博士がスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸のために取り入れさせた伝言ゲームなどの種目はすべて、青山博士の期待通り二丁目が一位を獲得しました。しかし、綱引きや棒倒しなどの力が必要な種目は影の運動会優勝請負人のマッスル北村がひきいる三丁目が勝ちました。自力に勝る一丁目も負けてはいませんでした。

 ついに残る競技はあとひとつ、リレーだけになってしまいました。このリレーの勝敗によって、総合優勝の行方も決まります。三丁目の町会長さんがマッスル北村を呼びよせて言いました。

「北村君、もしわが三丁目が優勝を逃したら、君に支払ったお金は全額返してもらうからね」

「ワカッテマス。マカセテクダサイ」

「君は忘れていないだろうね!今朝の100メートル徒競走を。あの時君は二丁目のへなちょこうさぎに惨敗したじゃないか。本当に君に任せて良いんだろうね?」

「何ヲ言ッテルンデスカ?三丁目ノ町会長サン。次ノリレーデハ、ワタシニイイアイディアガアルンデス。トコロデ三丁目ノ町会長サン!イソップ童話ノ”うさぎとかめ”ヲシッテマスカ?」

「ああ、知っているとも。うさぎとかめが競走して、途中でうさぎが昼寝して亀に負けるってやつだろう。それがどうした?」

「ソノトオリデス。ワタシハムカシママカラオシエテモライマシタ。二丁目ノスーパーうさぎモウサギデス。ダカラ油断サセレバ良インデスヨ」

「そうか、その手があったか!」

 そして、マッスル北村と三丁目の町会長さんは、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸に近付いて、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸に聞こえるようにわざと話し始めました。

「町会長サン、ワタシモウ走レマセン」

「それじゃ困るんだよ!北村君」

「ワタシハ三日前ニフロリダカラヤッテキタバカリデス。時差ボケデ走レマセン。立ッテルノガヤットデ〜ス」

 その話をそばにいた耳の良いスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸が聞き逃すはずがありません。スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は二人の話を信じてしまい、青山博士に、

「博士!青山博士!二丁目はもう優勝したも同然ですよ。何せ、三丁目のマッスル北村は時差ボケで走れません」

と言いました。青山博士は、

「そうか、やったな!スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸よ。これでわしも死んでお詫びをしなくてすむぞ!!」

と、一緒になって浮かれてしまいました。それを影で見ていた三丁目の町会長さんとマッスル北村は、しめしめと思いました。

 リレーがスタートしました。三丁目のアンカーはマッスル北村、二丁目のアンカーはもちろんスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸です。いよいよアンカーが走る番です。なんと二丁目が一番早くアンカーのスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸にバトンがわたりました。完全に浮かれていたスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は、前の走者からバトンをわたしてもらうと、もう優勝したつもりで一生懸命走らずに、こともあろうに手を振りながらスキップをし始めました。青山博士も浮かれて、

「わ〜い、優勝だ、優勝だ」

と言って騒いでいます。ところが、浮かれて手を振りながらスキップをしているスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸のわきを全速力でマッスル北村が走り抜いていきました。それに気付いたスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は、

「だましたなあ!!」

と、走り去ろうとしているマッスル北村に言いました。

「ダマサレルホウガ悪イノネ、ウサチャン!!」

と、マッスル北村は言い返しました。脱兎のごとくスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は猛烈な勢いで追いかけました。そして鼻一つの差でスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸がマッスル北村よりも早くゴールしました。かくして二丁目が町内運動会で総合優勝を飾りました。青山博士やほかの二丁目のみんなが優勝を喜び合っていると、マッスル北村がスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸のところにやってきて、

「スーパーうさぎ様、ワタシヲ弟子ニシテクダサイ、オネガイシマス」

と、頼み込みました。そしてマッスル北村はスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸の手を握って、

「本当ニカワユイ手ヲシテルネ」

と言いながらすり寄ってきました。スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は気持ち悪がりながら、

「博士、助けてください!」

と、青山博士に助けを求めました。青山博士は、

「わしのスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸に手を出すな!この世のスーパーヒーローになるまでは、変なスキャンダルは困るんじゃ!!」

と叫びました。そんなことをしているマッスル北村の後ろから、

「北村君、北村君」

と、マッスル北村を呼ぶ声がしました。マッスル北村が振り返ると、

「わかっているんだろうね。北村君、負けた責任は全部君にとってもらうよ。さあ、三丁目のみなさんがお待ちかねだ、早くこっちへ来なさい!」

「ソンナ、バカナー」

と言いながら、マッスル北村は三丁目の町会長さんに連れ去られていきました。その後、マッスル北村がどうなったか?三丁目のみなさんしか知らない。

 

郵便局強盗

 

 町内運動会で二丁目が優勝してから、半年がたちました。

 青山博士と臼井助手は、昼休みに研究所でテレビのニュースを見ていました。ニュースではなんと街の郵便局に強盗が押し入って、強盗犯が郵便局内に立てこもっていると、伝えました。このニュースを耳にした青山博士は、

「この郵便局強盗事件、彼に解決してもらおう!」

と言いました。いやな予感がした臼井助手は、

「彼ってまさか、ぴょんぴょん丸のことじゃないでしょうねえ、博士!」

と言いました。

「その通りだ!臼井君。・・・郵便局強盗を捕まえるのじゃ!スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸よ!!」

と青山博士が叫ぶと、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸がとなりの部屋からさっそうと登場してきました。臼井助手は、

「博士!忘れたんですか?1年前の銀行強盗事件の時のことを!!あんな危ない目にまたぴょんぴょん丸を合わせるって言うんですか?」

と、言いましたが、青山博士は、

「うるさい、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸はわしがこの世のスーパーヒーローにするために二度も命を救ってやったんだ。この世のスーパーヒーローになるためには、強盗事件の一つや二つ解決できなくてどうするんだ。スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸!今すぐ郵便局へ行って来なさい」

と言いました。臼井助手は、

「ぴょんぴょん丸!郵便局なんかいかなくても良いんだよ。この世のスーパーヒーローなんかにならなくても良いんだよ。」

と言いました。すると青山博士が、

「あれはちょうど8年前の冬の寒い日だった・・・」

と言いかけると、臼井助手がすかさず、

「その話は1年前に聞きました」

と言いました。けれどスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は、

「かしこまりました、博士」

と、言うと研究所を飛び出して行きました。

 そして、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は郵便局に到着すると、この郵便局強盗事件担当の赤羽警部が、

「へんなのがあらわれた。」

と、言う間もなく、郵便局の中へ入っていきました。そしてスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は強盗犯が持っていた猟銃を取りあげ、強盗犯を取り押さえて、近くにあった郵便小包用の空き箱の中へ押し込めて封をしました。そして、人質になっていた郵便局員さんに強盗犯を押し込んだ小包を差し出して、

「この小包、警察まで郵送してください」

と、頼みました。

 さあそれから大変です。”ぴょんぴょん丸、郵便局強盗犯を警察へ郵パック”と言う見出しの号外が配られるわ、青山博士はマスコミの取材に追われるわ、一躍、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸はスーパーヒーローになりました。青山博士はあるマスコミのインタビューで調子に乗って、

「スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸には、火山の噴火をも押さえることができる力をもっとるんじゃ」

と、こたえる始末。それを影で聞いていた臼井助手はスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸を呼び寄せて言いました。

「ぴょんぴょん丸、君は博士のもとから離れた方がいいよ。博士は君が火山の噴火を押さえることができるなんて言っているんだよ」

スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は、

「ボクにはそんな力があったなんて、知らなかった」

と言いましたが、臼井助手は、

「そんな分けないだろ、博士のあんな調子でいくと君は今度は噴火口に飛び込むはめになるんだから・・・そうしたら今度という今度は本当に・・・だから、博士から離れて遠い山へでもお行き!!」

と言いました。しかしスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は、

「でも、それじゃあ青山博士をうらぎることに・・・」

と言いました。

「ぴょんぴょん丸、お前はもう十分博士のために働いたよ。見てごらんよ!インタビューを受けてる今の博士の生き生きした表情を!だから、もう遠くへお行き!!」

と臼井助手は説得しました。スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は臼井助手の言うとおりにすることにしました。スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は臼井助手に言いました。

「遠くへ行く前に青山博士にあいさつしてこなくちゃ!」

「それだけはやめてくれ!」

 

 それからしばらくして、青山博士が臼井助手に、

「そういえば最近、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸の姿を見ないが臼井君知らないかね?」

と訊きました。臼井助手は、

「知りませんよ」

とこたえました。

「それじゃあ、臼井君、探してきてくれないかね?わしはマスコミの対応に忙しくて」

と、青山博士は臼井助手に頼みました。

「博士も一緒に探しましょうよ。博士は、ぴょんぴょん丸の親以上の存在なんでしょう?」

と、臼井助手に諭された青山博士はそれから三日間、街中を探し回りましたが街中どこを探してもスーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸を見つけることができませんでした。とうとう青山博士は、

「スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸や、おまえはどこへ行ってしまったんだ。おまえはわしがこの世のスーパーヒーローにするために、二度も命を助けてやったんだぞう。おまえにとってわしは神様以上の存在なんだぞ!このわしをおいて、いったいどこへ行ってしまったんだ!!」

と、泣き出しました。

 そのころ、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は本当にどこへ行ったのでしょうか?それは臼井助手に言われたとおり、遠い人里離れた山の中にいました。そして、そこに住む野うさぎが、きつねやテンに襲われてそうになっているところを、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸は助けてやりました。いつしか、そんなことを何回かしているうちに、遠い人里離れた山の野うさぎたちのスーパーヒーローになっていました。

 そのことを青山博士は風の便りに聞きました。青山博士は、

「わしは、スーパーうさぎパートUサイボーグぴょんぴょん丸をこの世のスーパーヒーローにしたかったんだが、お山の大将・お山のスーパーヒーローになったか!・・・まあそれも良いかな」

と、思いました。