早春にて

その2

私の根元の“パイプの青年”は再びハーモニカを吹きだした。今度の曲はブルージーな曲だね。最初の“ファのナチュラルに、ミ〜レ、ソ・ソ・ソ”次の3連符が印象的…。おや!あっちから別の“金髪の青年”がやってくるよ。“金髪の青年”はハーモニカを吹いている“パイプの青年”の前で立ち止まった。

“パイプの青年”がブルースを吹き終えた。“金髪の青年”が、

「いま、何時ですか?」

と、訊いた。“パイプの青年”は、

「わからないさ。あいにく、ぼくは時計を持っていないんだ…ぼくには時計なんか必要ないのさ!」

と、こたえた。

「ワタシ、アメリカのデンバーからやってきました!ユーはハーモニカをやるんですか?ハーモニカはなんていうんですかねぇ?弾く、ですか?なんですか?アメリカでは、プレイ・ザ・ピアノ、プレイ・ザ・ギター…プレイ・ザ・ハーモニカですべて“プレイ”です」

「ハーモニカは“吹く”じゃないのかな?」

「”吹く“ですか…ホントにこの国の言葉はむずかしいです!でも、ユーはこの国の人じゃないみたいですね?どこから来たのですか?」

「ぼくかい?ぼくは“ムーミン谷”っていうおとぎの国からやってきたんだ」

「オー・マイ・ゴッド!!おっ、おとぎの国…ですか!!??…ユーは神の救済が必要です!この近くに教会があります。今すぐに私と一緒に教会へ行きましょう!」

と、“金髪の青年”はそう言って“パイプの青年”の腕をつかんで引っ張った。

「おい、おい、ちょっと待ってくれよ!ぼくには宗教なんか必要ないのさ!」

「そんなこと、教会へ行ってみなければわかりませんね!」

「やめてくれ!とにかくぼくには宗教なんか必要ないんだよ!」

「そっ、そうですか…では気がむいたらテレフォンください」

と、“金髪の青年”は紙切れをわたした。

 “金髪の青年”が行ってしまうと、“ハーモニカの青年”は

「ぼくには時計も宗教も必要ないのさ」

と、つぶやいた。そして再びハーモニカを吹きはじめた。メロディアスなポップスだ。

 『すべてはだんだん良くなってきている』

 『これ以上悪くなりっこないさ』