『漁師を助けたペンギン』
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。
おいらはいつものように海へ出てオキアミを食べていたんだ。でもその日はいつの間にかずっと遠くまで潮に流されちゃったんだ。おいらは南極へもどろうとするとマイルカの群に出くわした。
「ペンギン君!キミたちペンギンはペンギンなのに、なんであんなにイルカ泳ぎが得意なの?」
ってマイルカ君がいきなりきいてきた。
「マイルカ君みたいにして泳ぐと速く泳げるんだよ」
「やっぱりボクたちのまねをしてたの?パクリだね」
「パクリって…」
「元祖イルカ泳ぎとこれから競争だ!」
っておいらマイルカ君たちと競争するはめになっちゃたんだ!そうしたら南極へ帰ろうとしてたのに、ますます遠くまでいくことになっちゃった。
「いやあ〜!ペンギン君もなかなかやるねぇ。それにキミたちは、おどりがうまいよね!時々やってるじゃない。上を向いてフリッパーを広げながら首をのばしてア〜とかウ〜とかさけんでさ!」
「いつの間に見てたの?あれはおどりなんかじゃないし、ペンギンみんながやるってわけでもないんだよ」
「へえ、そうなんだ!話はかわるけど、イッカクの角はなんであんなに長いか知ってるかい?」
「イッカクってまっ白なクジラの…?今度はクイズかい?」
おいらはマイルカ君の話しの展開についていくのがやっとだった。
「そうだよ!あの角は、輪投げをするために、あんなに長いんだよ」
「ええっ!…あの角にわっかをかけるの?そんなことしたらイッカクはおこって、それこそ長い角でどつかれるんじゃないの?」
「そうかもしれないね…今度、イッカクがおこるかどうか?ペンギン君!ためしてみてよ」
「マイルカ君!いったいなにがいいたいの?」
「いや、ほんのじょうだんだよ…ところで、北にいるボクらの仲間からの情報なんだけれど、キミとおんなじペンギンが面白いことをしてるんだってさ。いっしょに見にいこうよ!」
「ペンギンが面白いことを…?」
おいらはマイルカ君にのせられてどんどん南極からはなれて、遠くへいっちゃったんだ。ひょっとしておいらってキャッチセールスや〇〇商法にひっかかりやすいのかもしれないな〜あ。
面白いことをしているペンギンっていうのはなんとマゼラン君のことだった。マゼラン君は魚を追いかけてた。
「ねェ、マゼラン君!なにをしてるの?マイルカ君たちと魚の早食い競争でもしてるの?」
「やあ、アデリー君!そんなことはしていないよ…魚をむこうの巻き網に追い込んでいるところなんだよ」
「むこうの網って、あれは人間がしかけた網なんじゃないの?人間たちがやってる漁を手伝ってるの?」
「その通り!ある人の手伝いをしているんだよ」
「マゼラン君!どうして人間の手伝いなんかしてるの?なにもアイツらの漁の手伝いなんかしなくったって、ちかごろじゃ、いっつもペンギンが食べる分の魚まで根こそぎたくさんとっちゃうじゃない!おいらたちペンギンも食いしん坊だけど、人間ときたらまったくよくばりなんだから、自分たちが食べる分よりも多くよけいにとってちゃうんだから…」
「前よりも多くとか、ほかの人間よりも多くとかって考えちゃうと、人間たちはきりがなくなっちゃうんじゃないのかなあ〜だからどんなに多くとっても満足できないんだよ!人間ってホント何が楽しくて生きてるのやら…つまんないことで争ったり、ケンカばかりして…ボクたちペンギンみたいにもっと肩の力をぬいておおらかに生きればいいのにね」
「ホントだね!それに人間って石と毒以外はなんでも食べちゃうくせにねェ」
「それは違うよ!人間は岩塩っていう石も食べるし、時々毒まで食べて死んじゃう人間だっているよ!」
「マゼラン君!前にいってたよね…ピラニアと人間っておんなじことをするって。ピラニアも人間もよく食べるってところもにてるね!ただピラニアは地球のなかで一部のところしかいないけど、人間は今や、砂漠の真ん中だろうが、山のてっぺんだろうがいたるところにいてあふれかえっているよね。それがみんな大食いときてるんだからピラニアよりもタチが悪いよ」
「人間たち自身も増えすぎちゃって困ってるんじゃないの?」
「それなのになんでわざわざ人間たちの手伝いをしてるのさ!きっと近いうちに人間たちはこの地球上にある食べ物をみんな食べつくしちゃうよ」
「そりゃあそうかもしれないけれど…この網を投げてる漁師さんは違うんだよ。いつも自分でさばききる分しか魚をとっていかないんだ。不漁の時も多いしね!その漁師さんはもういい年のおじいさんなんだ。今日が最後の漁なんだって…多分もう引退するんじゃないの?だから今日だけは大漁にさせてあげたいんだ!大漁っていってもたかがしれてるしね。実はね、もう5年くらい前のことなんだけれど、ある日ボクはサメに追われて夢中で逃げてたらおじいさんの網に引っかかっちゃったことがあるんだ。網は引き上げられてボクはもうダメかと思ったんだよ。だって人間たちはよくボクたちペンギンを釜ゆでにするっていうだろ。ボクもてっきりそうなるかと思ったんだ。ところがおじいさんは違った。 おじいさんは網にからまったボクを見つけるとすぐに網からはずしてくれたんだ。でもボクはフリッパーや足にケガをしちゃって、動けなかったんだ。するとおじいさんはボクを大事に抱きかかえて自分の家につれていって、足に副え木をあててくれたり、魚をくれたりしてくれたんだ。それで、ボクが元通り元気になると、海に返してくれたんだよ!」
「マゼラン君のことを助けてくれたのかあ…めずらしい人間もいるものだねぇ」
「そうなんだよ!だから今日はその恩を返したくて…」
そういうとマゼラン君はふたたび巻き網に魚を追い込みはじめた。そして巻き網のなかに魚があるていどたまると、網は引き上げられたんだ。マゼラン君は網といっしょに海面に上がっていった。おいらもマゼラン君についていったんだよ。マゼラン君は海面から首を出して年老いた漁師にむかってフリッパーを振ったんだ。おじいさんはこっちを見て、最初はビックリしてたけど手を振ってくれたんだよ!おじいさんもマゼラン君のことを忘れていなかったんだね!マゼラン君は、
「おじいさん!いつまでも元気でね!」
ってさけんだんだ。おじいさんにペンギンの言葉はわからないはずだけれど、おじいさんは目をうるませたんだ!マゼラン君はしばらくのあいだ手を振ってるおじいさんを見つめていたんだけれど、急に海に潜ってその場から離れていったんだ。おいらはいつの間にか遠くまできちゃったから、南極へ帰るのがたいへんだったんだよ!
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。食べ物は大切にね!