『パパになったペンギン』

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。

 

 コガタペンギン君がコアラの赤ちゃんをひろった!っていううわさをききつけた。さっそく、おいらはそのうわさを確かめるため、コガタペンギン君がいるフィリップス島へいったんだ。

「コガタペンギン君!コアラをひろったってホント?」

「ホントですよ!ほら」

ってコガタペンギン君は卵を温めるように抱いていた袋に入ったコアラの赤ちゃんを見せてくれた。コアラの赤ちゃんは白い袋から顔だけだしていた。

「うわー!まだちっちゃい赤ちゃんコアラだねぇ。ところでどうしたの?そのコアラ?」

「数日前、道ばたでこの子のお母さんが車にひかれてたおれているのを私めがたまたま見つけたんです。けれどお母さんはすでに虫の息で助けることができなかったんです。お母さんが亡くなる寸前に『袋の中の子をお願いします!りっぱにひとり立ちできるまで…』ってお願いされちゃったんですよ!お母さんの袋の中でこの子はピーピーいって泣いてたんです。こんないちっちゃい赤ちゃんコアラをそのままほうっておくわけにもいかないから、私めがひろい出して育てることにしたんですよ」

「コガタペンギン君はえらいんだね!」

「そうでもないですよ。こうして育てはじめるとかわいらしくて!今赤ちゃんが入ってるこの袋は私めが白い布をぬって作ったんですよ。それからこっちのコアラのぬいぐるみはハネジロちゃんが“この子のお母さんに!”って作ってくれたんです。けどやっぱりこの子はお母さんコアラのぬいぐるみよりも、パパの私めの方が好きみたいなんです。だってこうやって甘えてくるんだから…あ〜あ、よしよし…」

ってコガタペンギン君は赤ちゃんコアラをあやしたんだ。

「その子の名前はなんていうの?」

「この子の名前ですか?この子は“コアラちゃん”ですよ!」

「そのまんまだね!」

 コガタペンギン君はほ乳ビンでミルクをあげたりあやしたりと、それはすごい子煩悩ぶりだった。

 

 それから半年後。おいらはマカロニ君といっしょにコアラちゃんの様子を見にいったんだ。コアラちゃんは半年前とはくらべものにならないほど大きくなっていた。

「コアラちゃんずいぶん大きくなったね!」

「まだまだ赤ん坊ですよ」

「そんなことないよ。コガタペンギン君が大切に育てているからりっぱになってるよ!」

って話しているところに、お医者さんのシュレーターペンギン先生がやってきた。

「先生、どうしたの?」

「やあ、マカロニ君にアデリー君…私はコアラちゃんが順調に成長しているか?病気にかかっていないか?三日に一度見にきているんだよ。コガタペンギン君に頼まれちゃってさ…コガタペンギン君がコアラちゃんをひろってきてからずっとなんだよ!」

「先生も大変だね」

 シュレーターペンギン先生はコアラちゃんに聴診器をあてたり、体重計にのせたりしたんだ。そして、

「コアラちゃんは体重もどんどん増えているし、背丈も大きくなっているよ」

っていったんだ。

「ほ〜ら、コガタペンギン君!先生も大きくなった、っていってるよ。やっぱりコアラちゃん、この半年間でずいぶん大きくなったんだよ!」

「な〜に、まだまだ赤ちゃんですよ。だってこんなに私めに甘えてくるんですよ!アハアハハ…こら、だめですよコアラちゃん!くすぐったら、アハハハ…だめだっていってるでしょ、くすぐっちゃあ!やめなさいって!キャハ、ハッハハハハ…」

「これじゃあ、どっちが遊ばれてるのか?わからないよね」

「アデリー君今なにかいいましたか?」

ってコガタペンギン君は急にするどい目つきになった。

「えっ!きっと空耳だよ…ね!マカロニ君」

「アデリー君、ヘンなところでボクに話をふらなでくれよ!」

 

 さらに数ヵ月後…。今度はイワトビ君とコアラちゃんに会いにいったんだ。ちょうど、シュレーターペンギン先生がコガタペンギン君のところにきていた。コアラちゃんは数ヶ月前よりもさらに大きくなっていた。ひょっとしたらコガタペンギン君よりも大きいんじゃないの?シュレーターペンギン先生が、

「もうそろそろ、コアラちゃんを生まれ故郷のユーカリの森へひとり立ちさせてあげないといけないな」

っていったんだ。

「この子はまだまだ赤ん坊ですよ!ユーカリの森なんかに放せません」

「コアラっていうのはふつう、一歳でひとり立ちするもんだよ」

「そんことはありません。まだこの子は…」

「だけどこのままずっとコアラちゃんといっしょにいることはできないんだよ」

っておいらはコガタペンギン君にいった。

「まだまだこの子は…だってついこの間まで、おかあさんの袋のなかでピーピー泣いていたんですよ!」

「コガタペンギン君!コアラちゃんはコアラの仲間といたほうが絶対しあわせなんだよ。死んだコアラちゃんのお母さんだって天国できっとそう願っているはずだよ!」

「イワトビ君がそういうのなら、明日、コアラちゃんをユーカリの森に放してきますよ」

 

 次の日…。

 ペンギンみんなでユーカリの森にコアラちゃんを放しにいったんだ。コアラちゃんはコガタペンギン君の背中にべったりくっついていた。

「ほら!このユーカリの木につかまりなさい!」

ってコガタペンギン君がコアラちゃんにいいつけたんだ。コアラちゃんはいわれたとおりユーカリの木に恐る恐るつかまった。ゆっくりとね。するとすぐに木を登っていった。高く高く…。

「あんなに高いところまで登っていっちゃって…コアラちゃんたら、私めが簡単にいきつけないところにまで、いつのまにかいけるようになってたんですね」

ってコガタペンギン君はコアラちゃんを見上げながらつぶやいた。そして、

「コアラちゃん!コアラちゃんは車なんかにひかれるんじゃありませんよ!!」

って叫んだ!コアラちゃんは、

「お父さんもね!今まで…ありがとう!!」

ってふりむいてこたえてくれたんだ。再びコアラちゃんはユーカリの木を高くてっぺんを目指して登っていったんだ。

「コアラちゃんたら、あんな生意気な口をきくようになっちゃって…どうやら私めは良い父親ではなかったのかもしれませんね…」

ってコガタペンギン君は、昔コアラちゃんが使っていた白い袋をにぎりしめながらしょんぼりしてた。

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。コガタペンギン君!キミはりっぱなりっぱなパパだったよ!