『温泉を掘り当てたペンギン』
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。
3年ぶりにマゼランペンギンが生まれ故郷のフェゴ島に帰ってきた。マゼラン君は宝物を探しに小さなヨットで世界中をまわっている。でもまだ一度も宝物を掘り当てたことがないんだ。なんでも、三年ぶりにフェゴ島に帰ってきたのは、フェゴ島に宝物がうまっているからなんだって。マゼラン君に会うため、おいらはフェゴ島へいった。
「マゼラン君!久しぶりだねェ。元気だった?」
「やあ!アデリー君じゃないか?キミは元気そうだね」
「うん!おいらはいつもこのとおり元気だよ。マゼラン君って世界中を旅してるんでしょ?楽しんだろうね?」
「いや、そうでもないよ。アマゾンの奥地へいったときにはピラニアに追いまわされ、シブヤの街中を歩いていると人間に追いまわされて、さんざんだったよ!」
「へぇー、ピラニアと人間って同じことをするんだね!」
「それから、北アフリカで宝物を掘っていると、宝物じゃなくて、爆弾が出てきたこともあったよ!もう少しで死ぬところだった!」
「 宝さがしも命がけなんだね!」
「そうだよ」
「ここに帰ってきたのは、このフェゴ島のどっかに宝物がうまってるからなんでしょ?どんな宝物なの?」
「それはいえない…掘り当ててからのお楽しみさ!!」
マゼラン君は二本のL字型の針金を両方のフリッパーに持って、”ダウジング”をして、宝物がうまっているところをさがしはじめたんだ。針金の先を真っ正面に向けて、目をつぶってしずかに歩きだした。数分とたたない内に、針金が横にふれたんだ。そのときマゼラン君が、
「ここだ!」
といって、スコップで地面を掘りだしたんだ。どんどんふかく掘っていった。それが三日もつづいたんだよ!おいらも掘るのを手伝おうかと思ったけれど、そういうふんいきじゃなかったな。
プシューってとつぜん、掘ってるところから水がふき出した。水がじゃんじゃん出てきて、とうとう小さな池ができちゃったんだ!池から湯気がモワモワただよってた。おいらとマゼラン君は池のふちでしばらくそれをながめていると、ヒゲペンギンのおじさんがとおりかっかたんだ。おじさんは、
「おや!アデリー君!こんなところでなにしてるんだい?あれ?こんなところに池があったかな?」
おじさんは池のふちにしゃがんで片方のフリッパーを池につっこんだ。
「やっぱり…」
おじさんはそういうなり、ジャボ〜ンって池に入ったんだ。
「こりゃあ、いい湯だ!いい温泉だよ!アデリー君もマゼラン君も入ってみなさい!!」
おいらはおじさんのマネしてジャボ〜ンって入ったんだよ。
「ホントだ!おいらいつも寒いところにいるから、身も心もほぐれるよ。ねえ、いい湯だよ!マゼラン君も入りなよ!気持ちいいよ!」
マゼラン君も入ったんだ。フーッなんてため息をついちゃってさ!!
温泉が出たっていううわさを聞きつけたペンギンが次々やってきた。みんなよろこんでね…。王様も来たんだ!王様は気持ちがいいって、この温泉を気に入って、
「ここをマゼラン温泉と名付けよう!」
って決めたんだ!みんなマゼラン温泉につかりにやってきた。
でも、温泉を掘り当てたマゼラン君だけうかない顔をしてるんだ。おいらはきいてみた。
「マゼラン君!どうしたの?体のぐあいでもわるいの?」
「いや、そんなことないよ」
「どうして元気がないの?」
「 今までずっとボクは宝物をさがして、世界中をまわってきた。これまで宝物といえば、金・銀・財宝だった。つまり、お金持ちになりたかったんだな!けれど、よく考えてみれば、お金持ちになってもたぶん、一週間もすればぜいたくなくらしにあきちゃうと思うんだ。そうすると、金・銀・財宝を掘り当てても、なんにもならないような気がするし、そこですべてが終わっちゃう様な気もするんだ。それが今回、温泉を掘り当ててみんなによろこばれて、なにかお金とはちがう宝物を見つけたような気がしたんだ…。ここで宝物をさがすのを止めちゃいけない、とも思うんだ。だから、明日からまた旅に出ることにしたよ。今までとはちがう宝物をさがしにね!」
「えっ!また旅に出ちゃうの?王様にマゼラン温泉って付けてもらったのに…今や、キミはみんなの人気者なのに…」
次の日、マゼラン君は小さなヨットで旅に出た。みんなで見送ったんだよ。おいらはヨットに乗ったマゼラン君に、
「また、絶対に帰ってきてね!」
ってさけんだんだ!
「いつか必ずもどってくるよ!」
ってマゼラン君はこたえてくれた。やがてヨットは水平線のむこうがわへいっちゃった。
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。おいらはこのごろ、毎日、マゼラン温泉に入りにフェゴ島へいってるんだよ。