『お見送りをしたペンギン』

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。

 ある時、おいらの耳にあのザトウクジラの不気味な歌声がとびこんできた。歌がきこえる方にいってみると、そこにはザトウクジラをはじめものすごい大きいシロナガスクジラや小さなといってもおいらよりはるかに大きいゴンドウクジラたちがそれはたくさん集まっていたんだ。セミクジラは海面をジャンプしてたし、頭でっかちのマッコウクジラはおどるように海ふかくもぐっていった。ザトウ君が一曲歌い終わるのを待ってから、

「ザトウ君!キミたちはここで何をしているの?みんな集まってさ」

ってきいてみた。

「これはいつぞやのペンギン君♪オレたちはパーティーを開いてるんだよラ〜リラ♯」

「パーティー?それにしてもこれだけたくさんのクジラが集まるとやっぱり壮観だねぇ」

「なあ!ペンギン君、オレはもうさっきから歌いどおしでのどがからからだから、オレのかわりに一曲歌ってくれないか?どうだい?どうだい?」

「えっ!おいら歌なんかあんまり歌ったことないからうまく歌えるかどうか…」

「下手でもかまわないさ!クジラのパーティーには歌がつきものなんだからさラア〜ラ♯」

「それじゃあ、歌っちゃおうかな?」

 おいらは大きな声で歌ったんだ。ホントに歌うのなんか久しぶりだからはじめはきんちょうしちゃった。大勢のクジラたちがきいてたからね。でも一所けんめい歌ったんだ。歌い終わるとそこはまるでクジラなんか一頭もいないんじゃないかと思うくらい静まり返ってたんだ。

「今のおいらの歌はどうだった?」

ってそばにいたザトウ君にきいた。

「えっ?どうだったって…そっそれは神経にさわる、イヤ、神経を逆なでするじゃなくって、神経をゆさぶられる歌だったよ。フーッ、とにかくペンギン君、キミには負けたよ♭」

 遠くの方でホッキョククジラが

「シロナガスのおやっさん失神してるぞ!」

ってさけんでるのがきこえてきた。それをかくすかのように、

「ある意味では革命的な歌声だったよ!なんというか、その不協和音というか…あっ、独唱だから和音はないんだよね!」

ってニタリクジラ君がいったんだ。

「へ〜!そんなにほめられちゃあ、もう一曲…」

「あっ!いいよ!いいよ!一曲で十分だよ」

「そんなにえんりょしなくても…せっかくだから」

「もう、たえられないよ!イヤ、ホッ、ホントにさっきので十分だよ!ありがとうペンギン君!つづけてう歌うとのどによくないし、もしもそれでのどをつぶしたらあの伝説的な歌声をきけなくなっちゃうからね!それにこれからコククジラ一家のための儀式をはじめるから…」

っていってたくさんのクジラたちはとあるコククジラの一家をとりかこんだんだ。気をとりもどしたシロナガスのおやっさんが、

「それじゃあ、コククジラ君たち、キミたちのことは決して忘れないよ!」

っていったんだ…。

「コククジラさんたちはどっか遠くへいっちゃうの?」

っておいらがきいたんだ。

「ああ、これから遠くへいくんだよ…天国っていう遠くへね!」

ってコククジラのおばさんがこたえたんだよ。

「天国?ってまさか、一家そろって死んじゃうっていうの?」

「そうだよ。私らコククジラは増えすぎちゃったからね…」

「増えすぎちゃったって、どういうこと?」

「一昔前までは人間たちが私らのことをそれは絶滅寸前までたくさん捕っていたんだよ。ところが、ある日とつぜん、どういうワケか私らを捕るのをやめたから、反対に増えすぎちゃったんよ。だからエサのオキアミや小魚が足りなくなってきたんだよ」

「オキアミが足りないなら、おいらが食べる分を全部あげるから死なないでおくれよ!」

「ペンギン君はやさしいんだね!その気持ちだけ受け取っておくよ。でもね、オキアミが足らなくなるだけじゃすまないんだよ。海で生きるもの、いいや、この地球上で生活するものはみんな食う・食われるの関係でつながっているんだよ。ペンギン君、キミたちだってオキアミや小魚を食べるだろう?そのかわり、キミたちはサメやシャチに食べられちゃうことだってあるだろ。あの人間だって食う・食われるの目に見えない鎖で私らともつながってるんだよ。私らクジラが増えすぎちゃうと私らが食べるオキアミが減るだろ。そうするとそのオキアミが食べていたプランクトンはオキアミが減って食べられなくなるからそのプランクトンは増えるかもしれない… っていうように私らが増えすぎちゃうとほかの生き物にめいわくをかけちゃうんだよ。私らが浜に打ち上げられれば、もうオキアミや小魚を食べなくてよくなるし、私らの体は渡り鳥や陸の生き物たちのエサになることが出来るんだ。まさに一石二鳥じゃないか!これで世の中に最後の奉仕ができるし、これでいいんだよ。もう決まったことだし、私ら自分で決めたんだからさ…キミのさっき歌は天国へのいいおみやげになったよ!ホントにありがとう」

「死んでいいなんて…おいら絶対なっとくいかないよ!」

「この世の中なっとくいかないことなんて多いもんだよ。ペンギン君!あんたたちは気まぐれな人間どもにまどわされるんじゃないよ…それじゃあね!」

ってこの場を去って砂浜へむかっていくコククジラの一家を追いかけようとしたんだ。けれどナガスクジラがおいらの行く手をさえぎった。

「こんなのなにか絶対に間違ってるよ!ザトウ君!なんとかできないの?」

「オレにはどうすることも…おなじクジラの仲間として、明日は我が身かもしれないし…」

っていってザトウ君はなんともものがなしい歌を歌いはじめた。おいらは結局、コククジラの一家をただ見送ることしかできなかったよ。

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。今度ばかりはおいらなんにもいうことができないよ…。