『おひな様』

 「実はボク、高所恐怖症なんだ…だからここから早くおりたいんだけど…」

と、ある時お内裏様がボソッとつぶやきました。それをとなりで聞いてびっくりしたお姫様がいいました。

「あんたってだからいつも無表情だったの?あたしはあんたのそこがりりしいと思ってたのに…だましてたってわけ?」

「そっそんなつもりはないよ!」

このやりとりを聞いた左大臣がすかさず、

「それならお内裏様!ワシと場所を交代しましょう」

と申し出ました。お姫様が、

「その方がいいかもねェ」

といっていると、三人官女の真ん中がいいました。

「だまされちゃいけないわ!お姫様!あのジイさん、ひそかにお姫様のことをねらってるのよ。私この前、聞いちゃったんだから…あの左大臣が『ワシのこの弓矢でお姫様のハ〜トを射止められたらなあ』なんてしみじみいってるのを!まったくいい年して、油断もスキもありゃしない!」

「我が青春やぶれたり!トホホホ… 」

と、左大臣はうつむいてしまいました。

「それじゃあ、私がお姫様のおとなりに…」

と、今度は右大臣が申し出ました。するとまた三人官女の真ん中がいいました。

「それはもっといけないわ!右大臣ときたら”ひな人形ずいちの遊び人”っていううわさがあるんだからね!」

「だれだ!そんな根も葉もないうわさをたてるヤツは!」

「でもここだけの話し私ってお姫様よりもいけてない?」

と、三人官女の真ん中が右側に話しかけました。すると左側の三人官女がいいました。

「あんたがお姫様よりいけてるなら、私だっていけてるわよ。私たち三人ってほぼおんなじ顔してるんだから…」

「同じ顔してたって性格がちがうわよ!」

「私の性格があんたより悪いっていいたいの?」

「誰もそんなこといってないじゃないの。あ〜あ、それにしても笑い上戸っていいわよね、いつも笑ってて…なやみなんかないみたい…」

「キャハハハハハ…そんなことないよ!ウッシシシ…年がら年中笑ってるのもなかなか苦しいもんだよ、クッククククク…」

「このヤロー、いつもヘラヘラしやがって、まったくこのほうきでぶったたきたくなる。オレなんか何に腹を立てていたんだか?分からなくて怒ってるんだからな!」

「キミがとなりでいっつも怒ってるから、ボクはそれがこわくて泣かなきゃならないんだよ」

と笑い上戸、怒り上戸、泣き上戸がいいました。

「なあ、オレたちっていったいいつまで変わりばえしない雅楽ばっかりやってるんだよ?たまにはロックンロールでもやってさあ、『オーケイ、ベイベー!』とでも叫んでみたいぜ!こんちくしょう!」

と、五人囃子のヴォーカルがいいました。

「それには楽器が笛と太鼓だけじゃなあ…せめてエレキギターくらいなくちゃあ!」

「オレだってさ、横笛じゃなくてサックスを持たせてくれりゃあちゃんとキメてやるのになあ」

「前から思っていたんだけど、オレたちのバンドって編成がおかしくないか?」

「ボクはロックよりもハワイアンがいいな!ウクレレとスチールギターでさあ!」

「いや、それだったら弦楽四重奏の方がいいよ」

「四重奏だって?オレたち五人囃子なんだからそれじゃあひとり余るぜ」

「だったらビオラをふやして五重奏にすれば?」

「そういう問題か?」

「ダンスミュージックもいいよなあ!」

「いいや、レゲエ!」

「やっぱりロック!!」

「オレたちって音楽性があわないな!いっそのこと解散すっか?」

「ソロ活動するっていうの?」

と、五人囃子がもめていると、上ではお姫様が、

「なんだか下界のほうがさわがしいようだけど、今時ぼんぼりなんてはやらないわよね!ティファニーかなんかのランプにしてほしいわ!それから牛車っていうのもどうにかならないのかしら?リムジンやベントレーとはいわないまでも、せめてセンチュリーかプレジデントくらいにしてほしいわ!」

と不満たらたら…。

 

 おひな様の世界にもいろいろあるようです。どうですか?今年のおひな様は、お内裏様の席に左大臣を、それからお姫様の席に三人官女の真ん中を置いて飾ってみては…?