『日本に飛んできたペンギン』

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。

 おいらはアホウドリ君からもらった翼でニュージーランドの空の散歩を楽しんでいたんだ。するとチドリの大群がむこうからおしよせてきた。その中の一羽が、

「やあ、ペンギン君!ペンギン君!気持ちのいい天気だねえ!明日、ボクたちは長旅にでるんだけど、いっしょにこないかい?」

って声をかけてきた。

「えっ!ついていっていいの?ところで長旅ってどこまでいくの?」

「ひたすら北へいくんだよ!赤道をこえてシベリアまでさ」

「シベリアまでいくの!ずいぶん遠くまでいくんだね。こっからシベリアへいくとなると、日本を通るよね?」

「ああ、毎年ボクたちは日本の干潟で一休みしてるんだよ」

「日本までつていっていい?」

「いいとも!それじゃ、明日ここで待ってるから…」

「ああ、それからもう一羽おいらの友達をつれてきてもかまわないかい?」

「もちろん歓迎するよ」

 おいらはチドリ君と約束して、その足でイワトビペンギン君のところへ飛んでいったんだ。

「イワトビ君!明日、チドリ君たちが北へむけて旅立つんだって!いっしょについていって日本へいこうよ」

「日本!…シロに会えるかなあ」

「きっと会えるよ!会いにいこうよ!」

「ガラパゴス博士が作ってくれた犬語とペンギン語を通訳してくれる機械をもっていかなくちゃね!」

 

 次の日、おいらはイワトビ君といっしょにチドリ君との待ち合わせ場所へいったんだ。イワトビ君はグライダーのラングレー号に乗ってね。

 そうしてチドリ君たちと北へ北へとむかったんだ。ニュージーランドを出発してニューギニアを通って、赤道をこえてフィリピンへ渡った。そこから台湾をぬけて日本にやっとたどりついたんだよ。

 チドリ君たちはすごくきれいな干潟にとまって休むことにしたんだ。さっそくチドリ君たちは干潟にいるカニやゴカイをついばみはじめた。そこはすごくのどかな雰囲気でシギやアジサシなんかの水鳥たちが大勢羽を休めてた。ウミネコなんかみゃ〜みゃ〜いいながら眠たそうにあくびをしてるんだよ!おいらが住んでいる南極とは大違いだな。おいらも老後はこんなところでのんびり暮らしたいなあ。あっ!まだ老後のことなんて考えちゃいけないよね!気をとりなおしてと、

「ここはずいぶんきれいな干潟だねェ」

っておいらはチドリ君に話しかけた。

「ここは数年前から人間たちが水をきれいにしたり、ササを根ぐされさせたりして干潟を守ってくれてるんだよ」

「えっ、人間が!!なんでまた人間が干潟を守ってるの?」

「そんなのわかんないよ。ボクたちにはありがたいけれど…けど、もともとは人間たちがほかの干潟や湿地をどんどん埋め立ててこわしていったんだよ!だからせめてここぐらいは残さないと…って思ったんじゃないの?罪ほろぼしのつもりかなあ?でも干潟や湿地っていうのは、そのむかし海岸や湖だったところに、まわりから土砂なんかが流れ込んできて、だんだん埋まってきて、沼になり、そうしてやっと干潟や湿地になるんだ。やっとできあがった干潟や湿地もやがては完全に埋まって、草原や林になっていくんだよ。そうなるにはふつう数百年くらいかかるんだけど…つまり干潟や湿地っていうのは長い年月がたつと自然になくなっちゃうものなんだ。だからここも数百年後には干潟じゃなくなってるはずなんだ!そのかわりに数百年後には、今、湖なんかのところが湿地になってるはずなんだ。人間たちが干潟を守るっていったって、これから先どこまでやってくれるのやら…それよりも、もとはといえば人間たちが干潟や湿地を数年のあいだに埋め立てちゃうから、おかしなことになっちゃうんだよ!どうして人間って自然に逆らおうとするんだろうね?」

「人間ってホントにバカだよね!自然をこわさなければ、それを守らなくてもすむのに!まず、自然をこわすのにエネルギーを使って、それで今度は反対にそれを守るのにまたエネルギーを使って…それでいてエネルギーが足りないなんていってるんだから、まったく人間って救いようがないよね!」

ってチドリ君と話しあっていると、イワトビ君がやってきた。イワトビ君は、

「ボク、ちょっとシロのことをさがしてくるよ」

っていって、ラングレー号で飛び立っていったんだ。

 チドリ君たちはカニやゴカイを食べるのに忙しそうだし、イワトビ君はシロを探しにいっちゃったから、おいらは一羽で海へ出て、イカをたらふく食べたんだ。日本近海のイカもなかなかいけるねぇ。そしてチドリ君たちが休んでいる干潟へもどったんだ。すると、おいらに『いっしょにこない?』ってさそってくれたチドリ君の足にテグスがからまっていたんだ。チドリ君は思うように歩けないしシベリアにもいけないって困っていたんだ。おいらがテグスをかみ切ろうとしたけど、うまくいかなかった。ここからお医者さんのシュレーターペンギン先生のところへつれていくわけにもいかないし、もうすぐほかのチドリたちはシベリアへ出発する予定だし、このままだとチドリ君一羽だけがここにおいてけぼりになっちゃう。

 そこへ、イワトビ君がラングレー号に乗ってまいもどってきたんだ。犬のシロをつれてね!イワトビ君がチドリ君を見て、

「どうしたの、その足は?」

ってきいたんだ。

「どうもこうも、カニを夢中で追いかけてたらテグスがからまっちゃったんだよ!」

「おいらがかみ切ろうとしたんだけど、うまくいかなかったんだ」

「それならシロにかみ切ってもらおうよ」

ってイワトビ君がいいだしたんだ。それをきいたチドリ君はおずおずと後ずさりした。

「こわがることなんかないよ。シロはやさしい犬だし絶対にうまくいくよ!」

「足ごとかみ切ったりしない?」

「大丈夫だよ!それにこのままじゃシベリアにいけないよ!」

 イワトビ君がガラパゴス博士の機械を通じてシロにワケを説明したんだ。チドリ君も覚悟を決めたらしく、シロにテグスがからまった足を差し出した。シロはうまくテグスをかみ切ってくれたんだよ!チドリ君の足にはキズひとつつかなかった。チドリ君はすごくよろこんで、

「ありがとう!これでみんなとシベリアへいけるよ。ホントにありがとう!」

っていったんだ。

「でも、なんだってテグスなんかがこの干潟に落ちていたんだろう?ここは人間たちが守ってくれてるんでしょ?」

「人間にもいろいろいるってことさ!ちらかす人間と、それをかたづける人間と…」

「きっといろんな人間がいるからさあ…人間って一方では自然をこわして、他方では自然を守ろうとしているじゃないの」

「もっと人間どうしでよく話し合えばいいのにね!」

 数日後、チドリ君たちはシベリアにむかっていっせいに旅立っていった。おいらとイワトビ君はしばらくのあいだ、日本にとどまってシロと遊んだり、ユリカモメと競争したりしたんだ。

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。これからは自然とつき合うときはよ〜く考えてね!!