『マフラーをもらったペンギン』

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。

 おいらは久しぶりにコガタペンギン君に会いにフィリップス島へいった。

「やあ!コガタペンギン君!久しぶりだねえ。ところで今なにしてるの?」

「アデリー君じゃないですか…私めはこれからオーストラリアの牧場へ、この牧草を運ぼうとしているところなんですよ」

 コガタペンギン君は迷子になった羊や山羊をオーストラリアで飼っているんだ。

「牧場に牧草を運ぶの?ふつう、牧場には牧草がはえてるものなんじゃないの?」

「そりゃあそうなんですが、私めの牧場は数年前からいくら種をまいても牧草がはえなくなっちゃったんです。それで羊たちがおなかをすかせるんで、こうやって牧草をもっていってあげなくちゃならないんですよ」

と、いうことでおいらはコガタペンギン君が牧草を運ぶのを手伝ったんだ。

 コガタペンギン君の牧場についた。柵の中には十頭の羊と六頭の山羊がいた。牧場にはホントにあんまり草がはえていなかった。茶色い砂地にところどころ草がはえてるって感じ。牧場っていうよりも、砂漠の一歩手前っていった方がいいかもしれないな。おいらは何げなくピョンと柵をとびこえて牧場の中へ入ったんだ。

「アデリー君!あぶない!」

ってコガタペンギン君がいきなりさけんだ。おいらがふりむこうとすると、一頭の山羊がおいらに思いっきり体当たりをしてきた!それでおいらはすっ飛ばされて羊の群の中へ…。すると今度は羊たちがおいらをおしくらまんじゅうするみたいに、もみくちゃにしたんだ。おいらは羊たちにおしつぶされてペチャンコにされそうになったから、命からがらそこをぬけだしてやっとの思いでふたたび柵を乗りこえてコガタペンギン君のもとへもどったんだよ。

「羊たちはおなかをすかせて殺気立ってるから気をつけたほうがいいと…」

「コガタペンギン君!そういうことはあらかじめいっておいてよ!!」

「アデリー君、大丈夫?」

「うっ、なんとか…それにしても牧草をはやさないと、いつまでもこうして牧草をもってくるわけにもいかないでしょ?」

「それはそうなんですが…なんで牧草がはえなくなっちゃったのかまったくわからないんですよ。雨はてきとうにふってるのに…」

「ビクトリア先生に相談してみたら?先生はビオトープをつくったことがあるくらいだから、植物のことにはくわしいと思うよ!」

「そうですか!それならそうします。アデリー君ホントに大丈夫ですか?」

「うん、なんとかね!」

 おいらは南極へ帰ったんだ。その夜、おいらは夢をみた。その夢っていうのがおそろしくてね!次々羊たちがおいらに体当たりをしてくるんだよ!おいらはうなされて起きあがったんだ。ひたいにはあぶら汗をかいてね。もうその夜は羊が夢に出てきそうだったから、一睡もできなかったよ。そんなことが二三日つづいたんだ。おいらは寝不足になっちゃったから、お医者さんのシュレーターペンギン先生のところへいったんだ。ちょうどヒゲペンギンのおじさんが先生のところにきていたんだ。

「先生、おいら眠れなくてこまってるんですが…」

「眠れないって…アデリー君それで目の下にクマをつくってるんだね!そういうときにはとっておきの方法があるよ。羊がいっぴき、羊が二ひ…」

「わ〜あっ、やめてくれ!!そんなことしたらよけい眠れなっちゃうよ!」

っておいらは思わず叫んじゃったよ。

「どうしたんだい?そんな大声出して…」

 おいらは羊たちにもみくちゃにされたことや夢のことを先生にはなした。するとヒゲペンギンのおじさんが

「それはお酒でも飲んで忘れるのが一番だよ!」

っていいだしたんだ。シュレーターペンギン先生もそれにさんせいして

「寝酒に一杯か…それも悪くないねェ」

っていうことで、その晩おいらはおじさんとお酒を飲むことになっちゃったんだ。

 おじさんと飲みはじめて一時間後…。

「ねぇ、おじさん!だんだん目がさえてきちゃったよ!」

「それはまだまだ飲みが足りないってことだよ」

「えっ、そんなあ…シュレーターペンギン先生はたしか寝酒に一杯っていってたような?」

「いいや寝酒はいっぱい、たくさんのまなきゃききめがない、っていってたんじゃないかなあ?」

「え〜えっ、そうだったかなあ?」

「酒は百薬の長、たっくさん飲んだ方がいいに決まってる!とにかく夜はまだこれからだ。気長に飲もうよ!」

 さらに五時間後…。

「わしゃあ、もうだめだ!アデリー君、悪いが先にねさせてもらうよ…それにしてもキミがこんなにお酒に強かったなんて知らなかったぞ。血筋は争えないんだね!」

「そ〜んなことないよ」

 さらに二時間後…。

「やっと酔いがまわってきたのかな?へん!羊がなんだてんでい!もうこわくなんかないぞ!!明日はジンギスカンだ…ムニャムニャ」

 翌日…。

 目が覚めるともうお昼近かった。あ〜あ、でもよく寝た!けれど頭がおもいし、なんだか気持ち悪い…。

「やあ!アデリー君、やっと起きたかい。よ〜くねむってたぞ!!」

「うん…寝不足はなおったと思うけど、なんだか頭がズキズキするし、気持ち悪いんだ」

「そりゃあ、二日酔いだ!」

「二日酔いって…お酒は百薬の長なんじゃないの?」

「どんなにいい薬だって、あれだけたくさん飲んじゃ副作用が出るぞ」

「副作用だなんて、そんなあ…おいら昨日そんなにたくさん飲んだの?」

「なんだ、覚えてないのかい?ゆうにあそこにある樽二本分は飲んでるよ。キミがそんなにいける口だったとは…」

「うっ、頭がいたい!」

「二日酔いをなおすにはむかい酒が一番だよ」

「もう、お酒はいいよ!」

 寝不足はなおったけれど今度は二日酔いだなんて…おいらいったい何やってんだかっておもったら、なんだか急になさけなくなってきちゃったよ。

 おいらは頭がガンガンするし気持ちも悪いから気分直しにコガタペンギン君の牧場へいってみたんだ。もう、羊なんかこわくないしね。

 牧場につくとそのまんなかでコガタペンギン君がハンマーでくいを打ちつけているところだった。これがまたおいらの頭にカ〜ンカ〜ンってひびいてね!

「コガタペンギン君、なにしてるの?」

「アデリー君、もう大丈夫なんですか?」

「うん、まあね」

「それはよかった。今あらたに柵を作ってるところなんですよ。あれからキミにいわれた通りビクトリア先生に相談したんです。そうしたら先生は牧草がはえてこなくなっちゃったのはこの牧場の土に塩がたまったからだっていうんですよ。それにしてもアデリー君、顔色があんまりよくないみたいだけれど…」

「きのう、いろいろあってね、でも塩が!」

「そうなんですよ、塩が土にたまると牧草は塩に弱いから種をまいてもはえてこないんだそうです。そこで塩に強いアカシアだとかポプラを植えるとそれらはよく育ってくれておまけに土の中の塩をうすめてくれるんだそうです。そうして塩がうすまったところで牧草の種をまけば牧草がはえてくるんじゃないかってことなんです。ポプラやアカシアの苗木を植えてもそこに羊や山羊がいるとそれを食べちゃうから、まず牧場を半分に仕切って、片方に、少しせまくなっちゃうけれど、羊や山羊をよせておいて空き地にした方にアカシアやポプラを植えて塩がうすまったら牧草の種をまこうと思うんですよ。牧草がよく育ってくれたらそこに羊や山羊を入れて、今度は反対がわにもおんなじことをやるんです。そのために今仕切りの柵を作ろうとしてるんですよ。アデリー君、くいを打つのを手伝ってくれませんか?」

「いっ今はかんべんしてくれ〜!頭がこわれるう…」

 それから数年後…。

 コガタペンギン君がおいらのところにやってきた。

「アデリー君には牧草を運ぶときにいつも手伝ってもらってたからこれはそのお礼で…」

ってコガタペンギン君がプレゼントをくれたんだよ。箱を開けると手編みのマフラーが入っていたんだ。

「そのマフラーは私めの牧場で飼ってる羊の毛から毛糸を紡いで、それをハネジロちゃんにたのんでマフラーを編んでもらったのです。ハネジロちゃんはアデリー君と私めのためにマフラーを作ってくれたんです」

ってコガタペンギン君がいったんだ。

「コガタペンギン君とおいらのために!」

「そうなんです。ほら私めと色ちがいなんですよ!」

ハネジロちゃん、この前の“軍人さん”のことをゆるしてくれたんだネ。今ではコガタペンギン君の牧場は牧草があおあおとしげってるんだよ。だから羊と山羊たちはゆうがにたっぷり牧草をはんでるんだ。

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。手編みのマフラーって、うふ…あったかいよね。