『水の妖精と出会ったペンギン』

 

 私めはコガタペンギンです。フィリップス島に住んでいます。

 

 この前、ペンギンみんなで波乗りを楽しんでいたんです。フンボルトさんが浜辺で、

「あ〜あ!さすがはあたしのマカロニさん!!サラサラした髪を風になびかせてリッピングなんて決めちゃって…マカロニさんって何をやらせても絵になるのねェ。あれれ!マカロニさんの後ろにいるのはだれかしら?見慣れない顔ねえ〜金髪でねずみ色のマントなんかしているわ!」

ってへんてこなペンギンを見つけたんです。そして、みんなが浜辺にあがると最後にその金髪のペンギンがあがってきたんですよ。さっそくアデリー君が、

「キミはだれだい?」

ってきいたんです。すると金髪のペンギンが、

「波野又次郎」

ってこたえたんです。

「あたしたちとおんなじペンギンなの?」

って今度はフンボルトさんがきいたんです。

「又次郎だい!」

又次郎のみてくれは確かにペンギンなのですが、透明のガラスみたいなくつをはいているんです。

「風野又三郎っていうのは有名だけど…」

ってマカロニ君がいいかけると、波野又次郎が、

「ああ、あいつは僕の弟分さ」

っていったんです。

「弟分…ですか?」

って私めがいうと又次郎が、

「そうさ、あいつは僕がいないとなんにもできない」

っていったんです。

「キミは波ってことなのかい?」

ってジェンツー君がきいたんです。

「…だから、又次郎だって」

「キミはどこからやってきたの?」

「僕は年がら年中、世界中を回っているからね…どこからきたか?ってきかれてもなんてこたえていいのやら…南極からハワイを回ってここにきたっていうのが手っ取り早いかなあ…」

「南極!南極にいたことがあるの?おいらは南極に住んでいるんだよ」

「又次郎、あなたは波?ってことなの?それじゃあ風野又三郎はあなたがいなくちゃなんにもできないっていうのはおかしいんじゃないの?だって風が吹かなきゃ、波もたたないから…」

ってフンボルトさんがいったんです。

「なんべんもいわせないでくれ!僕は波野又次郎だい!たしかに風が吹かなきゃあ、波もたたないっていうのは間違ってはいない。でもそれは“見かた”の問題でもある…うん、そうなんだ、きっと!」

「ふ〜ん」

「風野又三郎はホントにキミの弟なの?」

ってイワトビ君がきいたんです。

「ちょっと考えてみてくれ。あいつは又三郎で僕は又次郎だよ」

「けど、キミが波野又次郎っていう証拠はなんにもないんだからねェ。ホントは“又四郎”かもしれないし…」

「たしかにそれは信じてもらうしかないね…それから、海の波だけが波ってわけじゃない。目には見えないけれど、音や光も波なんだよ。そう、世の中のものすべてがそれぞれの波を持っていて、それぞれがそれぞれの波を発したり受け取ったりしているっていってもいい。つまりすべては僕なんだ!波野又次郎なんだよ!」

「ふ〜ん」

「やっぱりキミは波なんだろう?」

「ま・た・じ・ろ・う!」

「ふ〜ん」

「なんだ!なんだ!そのさめた目つきは!これから海流のはなしをみんなにしてやろうと思ったけれど、僕を信じていないのなら、やめた!やめた!もういいよ!ペンギンっていうのは人間の大人とちがってもっと物分りがいいと思っていたけれども…」

「信じていないなんて、ひとこともいっていないじゃないの。ただちょっとねぇ」

ってフンボルトさんがいったので、又次郎さんがなんだか不憫に思えてきたから、

「わっ、私めは又次郎さんを信じますよ!」

っていったんです。

「おや!一番小さいペンギン君、キミとは友達になれそうだねぇ。名前は?」

「私めですか?私めはコガタペンギンっていうんです。でも、一番小さいは余計ですよ」

「おいらも信じてあげるよ」 

「なんだ!そのもったいぶったいいかたは!そうか、そうか、僕のはなしをききたくないんだな!!」

「きいてあげ…じゃなくて、ききたい!ききたいよ!!」

「フム、まあいいだろう…とにかく、海流ってのは面白いよねえ。地球ができて、海ができ上がってからずっと流れているんだ。46億年間ずっと流れている。キミたち生き物が生まれる8億年も前からなんだ。それは風によって流れるけれど、風は太陽光線が海を温めて海の熱は空気・大気を下から暖めるから風が吹くんだ。それに、キミたちには理解できないかもしれないけれど海流ってのはいつも地球の自転を感じながら流れているんだ。北半球では右向き、南半球では左向きの力を受けているんだよ。キミたちは地球が自転していることなんか、意識したことがあるかい?ある意味では地球が自転しているからこそ、海流はぐるぐる回っていられるんだ。その流れにのれば楽に世界中の海をめぐることができる。7つの海にはいろいろな海流があるけれど、とくに湾流と黒潮は最高だよ。流れがものすごく速いんだ。自然が作り出したジェットコースターさ!一度やったらやみつき…何度やってもあきないなあ!次々とマグロやサメなんかの魚たちを追いぬいていくんだよ!スリルとサスペンスさ!!いやいや、サスペンスはなかった。おっと!もうこんな時間だ。では、また明日この場所ではなしをするから…それじゃあ」

って又二郎さんは海に飛び込んだと思ったらすぐに消えてしまったんです。

「なんだったんだ…あいつは?」

ってマカロニ君がつぶやいたんです。

「でも、おもしろいはなしでしたよね」

「明日もここにこようか」

ってアデリー君がいったんです。みんなもそれに賛成したんですよ。

 

次の日。

 ペンギンみんながあの浜辺に集まったんです。浜辺から海のほうをながめていると、又次郎さんは波が作るチューブの中で波にかろやかにのりながらあらわれたんです。

「おや、みんなきているね。みんな、僕のはなしをききたいんだね。それじゃあ、今日は“水の循環”のはなしをしてやろうか。水っていうのはいろいろと形を変えてこの地球上をぐるぐる回っているんだ。当然のことながら海にはたくさんの水があるよね。って、いうより海は水でできている。その海の水は陽の光を受けてどんどん蒸発するんだ。蒸発して水蒸気となった水をいっぱい含んだ空気が上昇して上空で冷やされて雲を作る。この雲が雨や雪をふらせる。雲は十種類もあるんだ。巻雲・巻層雲・巻積雲・高層雲・高積雲・積雲・層積雲・乱層雲・層雲それに積乱雲の十種さ。このうちよく雨を降らすのは乱層雲と層雲とそれから積雲と積乱雲だよ。積乱雲は雹やあられ、雷まで落とすし、台風も積雲・積乱雲の仲間だ。巻積雲は雨が降るきざしを教えてくれる雲だ。雨や雪が地上に降り注げば、その水は地面にしみこんで地下水になるし、地下水は湧き水となってひょっこり地上に顔を出すこともあるだろうし、もしも地面にしみこまなければやがて川や湖、沼の水になることもあるだろう。木々や草花に吸い取られた水は植物のクロロフィルによってエネルギーと酸素とを作り出す。そうして川の水は、結局は海に注ぎ込んで、海から蒸発した水は一周することになるんだよ…あっと、そうだ!ここにかんたんに水の結晶を見ることができる箱がある」

っていって又次郎さんはマントの下から黒い箱を取り出したんです。それからスポイトで海水をちょっとだけ吸い取って、一滴だけ黒い箱の中に落としたんです。

「この箱の中に少しだけ水をたらして、しばし待つ…そして、ここののぞき穴から中をのぞくと水の結晶ができる様子が映し出されるんだ。どうだい?みんなに見せてあげるよ」

ペンギンみんなが順番に箱の中をのぞいたんですよ。そこにはきれいな六角形の雪というか水の結晶があったんです。私めはこんなきれいなもの、生まれてはじめて見ましたよ。ペンギンみんなが感心していると、又次郎さんが、

「ここいらの海水はきれいなんだね!それじゃあ、ここに人間たちが出した汚い水がある。次にこれの結晶を見てみようか」

っていって、ふたたびマントの下から茶色くにごった水が入った小さなビンを取り出したんです。さっきとおんなじように小ビンの汚い水をスポイトで黒い箱に一滴たらしたんです。それから箱ののぞき穴をのぞくと、さっきの六角形できれいな結晶とはまったく別のなんだかぼやけていびつな結晶が映し出されたんです。

「さっきとぜんぜん違うでしょ…この箱でできる水の結晶はその水の状態を、たとえば、きれいか?汚れているか?といったことをよくあらわしているんだ。さあ、ここからがフシギなところなんだけれども、みんなで『この水がきれいになりますように!』って祈ってみよう…すると、どうだい、きれいな結晶になるんだ。さあ!みんなで祈ろうよ!!」

って又次郎さんがいうから、わけもわからずみんなで祈ったんですよ。そうしたら又次郎さんがゆったとおり、いびつな形の結晶がみるみるうちにきれいな六角形の結晶になったんです。

「信じられないな!」

ってケープペンギン君がいったんです。

「世の中、信じられないことなんて多いものだよ。だけどこれはホントにみんなの祈りが水に通じたんだよ。人間たちは文化だ!科学だ!っていうものを追い求めているうちにそういった気持ちをどこかに置き忘れてしまったんだよ。ペンギン君、キミたちはそんなことはないよねぇ?」

「でも…やっぱり、ふつうじゃ考えられないわ!」

ってフンボルトさんがいったんです。

「きのう、僕は世の中のものすべてが波を持っているっていったよね…みんなの祈りの波が汚い水をきれいにして、美しい結晶を作らせたんだよ!なにも祈ることだけがきれいな結晶を作らせるわけではない。歌を水にきかせることによってもできるんだ。音も波だからね!ペンギン君、キミたちは鳥なんだから、だれか歌をさえずってはくれないか?」

「えっ!歌!おいらがうたうよ!」

ってアデリー君が申し出たんです。

「それはやめたほうが…」

ってマカロニ君が止めようとしたんですが、なんとアデリー君はすでにうたいはじめちゃったんですよ。なんともそれが前衛的な歌で、うまいのか?どうか?っていうのは私めにはさっぱりわかりませんでしたよ。それにずっと歌をきいているとなんだか偏頭痛が…けれど水の結晶のほうは六角形のきれいな形になったんです。

「あんたの今の歌でこんなきれいな結晶ができるなんて…」

ってフンボルトさんが絶句していると、又次郎さんがいったんです。

「つまり…その、歌は“心”、気持ちだから…」

「ふ〜ん」

今度ばかりは私めにも又次郎さんがいいわけしてるとしかきこえませんでしたよ。

 

次の日

「今日は海風と陸風のはなしをしよう。前にいったかもしれないけれど、風は空気が動くことなんだ。空気が動くには温度差や気圧の差が必要で、空気は温度が高くなると、温められると上へ上へと上昇するし、風は気圧の高いところから低いところへ吹くんだよ。海は陸地よりも暖まりにくくて冷めにくい。そもそも水が暖まりにくくて冷めにくいからね。海沿いで昼間、陸地は太陽光線によってすぐに暑くなるけれど、海は陸地ほど暑くならない。海と陸との間で温度差ができることになる。暑くならない、温度が低い海から暑くて温度が高い陸地に向かって吹く風が海風なんだよ。海風が吹くと、波乗りに向いた波ができるんだろ?夜になるとこれとまったく反対のことが起こる。つまりは陸から海に向かって陸風が吹く。風野又三郎はそうやって吹くことができるんだよ。ヤツは太陽光線っていう波によって動かされているのさ」

「キミと風野又三郎は仲が悪いの?」

ってアデリー君がきいたんです。

「そんなことはないさ。あいつはいい弟分だよ。前に海流は北半球では右向き、南半球では左向きの力を受けているっていったけど、実は風も同じ力を受けているんだ。あるところに低気圧ができるとそこに向かって四方八方から風が吹きこむ。風はさっきの力も同時に受けるから低気圧に向かって渦を巻くようになるんだ。台風やサイクロン、ハリケーンが渦を巻いているのはこのためなんだ。渦も一種の波だから、結局のところ風も波なんだよ」

「又次郎、あなたはなんでも“波”にしたいみたいね」

ってフンボルトさんがいったんです。

「そんなことはないよ、ぼくはただ真理をはなしているだけだよ。そんなことよりも潮の満ち引きのはなしをしようか。潮汐ってのは一日に二回起こるよね。これは月と地球それに太陽の位置関係によって引きこされるからなんだ。潮っていうのは月と地球と太陽が海の水を引っぱり合うから起こるんだよ。海水は月と地球と太陽の引力をいつも感じているんだね。キミたちはものを落っことしたり、自分が高いところから海へ飛び込んだりするときだけかろうじて地球の引力を感じるだけだろう?やっぱりキミたちは鈍感なんだなあ!」

って又次郎さんはケラケラ笑い出したんですよ!

「鈍感だなんて…そんなこといちいち気にしていたら生きていけないよ」

って、マカロニ君がいったんです。

「せわしないんだね!キミたちは」

「又次郎さんはいろんな力を感じているんですか?」

ってきくと、

「当たり前だよ…だって僕は波野又次郎だよ!それにね、一日は着実に長くなっているんだ。地球の自転のスピードがおそくなっているからね。今は、一日24時間だよね。6億年前は一日22時間だったんだよ。キミたちトリは地に足をすえてもうちょっとじっくり生きたほうがいいんじゃないのかい?それじゃあ」

っていうなり、又次郎さんは海に飛び込んだかと思うと消えていなくなったんです。

「それでも、人間たちよりはマシよね」

ってフンボルトさんがつぶやいたんですよ。

 私めは一羽であの浜辺からの帰り道、波乗りの練習をしていたんです。とつぜん、大きな波にのまれちゃったんですよ。それまで海はおだやかでそれは変な波でした。私めはいっぱい海水を飲んでしまって、海面でむせていると、嵐でもないのにつぎつぎ高波が襲ってきたんです。私めは海にもぐって難をのがれたんです。すると、どこからともなくケラケラ笑い声がきこえてきたんです。それは又次郎さんのそれとそっくりでしたよ。

 

次の日。

 あの浜辺に又次郎さんがあらわれると、私めは、

「又次郎さん!どうして、昨日、あんなひどいいたずらをしたんですか?私めはたくさん水を飲んじゃったんですよ!」

っていったんです。

「昨日は失敬したね」

ってかえされたんです。

「失敬、だなんて…波なんか世界中からなくなればいいんですよ!」

っておこると、

「平坦じゃつまらないさ!この世の中、波があるからこそ楽しいんだよ」

ってかえしたんです。

「そんなことはありません!」

って私めがいいかえすと、なんとフンボルトさんも、

「そうよ、昨日はあたしたちのことを鈍感呼ばわりして、津波なんか陸の生き物にとっては大迷惑なのよ!」

って加勢してくれたんです。

「津波!?あれだけは僕にもどうすることもできない。あれは僕も悪いことだと思っている。だけど地球が地震を起こすからしようがなく津波が起こるんだ。津波は一度発生すると誰にもとめられない。この僕にも…。ホントに津波だけはどうすることもできないんだ。津波は地球だけがなせる業なんだから…」

って、なんと又次郎さんは半べそをかいていたんです。

「そんな!泣かなくたっていいじゃないの?」

ってフンボルトさんがいったんです。

「泣いてなんかいないさ…ただ…ちょっと気分を変えて今日はオーロラのはなしをしようか?オーロラは太陽から地球に吹く風が地球の磁場によって北と南の磁極にすいよせられて、地球の大気との摩擦で光ることなんだ」

「太陽から風が吹いてるの?」

ってハネジロちゃんがきいたんです。

「そう、太陽からはいつも風に乗っていろいろなものがこの地球にやってくる。光の粒や電気の粒とか電波とか…ところで、地球自体が大きな磁石だってことは知っているよね?光や電気の粒は地球の磁力によって北極と南極に集まる。そして地球の空気の中に太陽からやってきたそれらが入るとオーロラになるんだ。だからオーロラは赤道付近では見ることができない。北極と南極辺りでしか見ることができないんだよ。北極と南極とでは対称的にオーロラが発生する。」

アデリー君が、

「オーロラは太陽風っていう風が引き起こすんだね」

っていったんです。

「そっ、そうだけど…太陽風も光や電気の粒もそれからオーロラ自体もすべて波なんだ。それからね、地球以外でも太陽系では木星や土星、天王星でもオーロラを見ることができるんだ」

「わ〜あ!天王星のオーロラってどんななのかしら?一度見てみたいわ!」

ってキガシラさんが感心したんです。

「波は幻想的な世界も作り出しているんだよ。おっと、今日はもうこれで終わりにしないと…これから演習にいかないといけないんだった。それじゃあ!」

っていうと、又次郎さんは海に飛び込んだんです。この日の又次郎さんはずっと歯切れが悪かったんですよ。

 

次の日。

 あの浜辺からペンギンみんなで沖をながめていると、はるかかなたから又次郎さんが大きな波にのってやってきたんです。

「今日は海の深層循環のはなしをしよう。キミたちにはじめてあった日に海流のはなしをしたよね。海流によって海の水はかきまわされているって。深層循環は海流とは別の海の流れだよ。深層循環は海流といっしょで地球にとってはなくてはならない“流れ”なのさ。深層循環はグリーンランド沖からはじまる。まず、グリーンランド沖で深海五千メートルまで一気に沈み込む。そうして大西洋の深層をゆっくりゆっくり、でも着実に南下して南極まで達する。南極までいくとそこでインド洋方面と太平洋方面とに分かれる。それぞれ今度は北上してインド洋、北太平洋で表層に浮き上がるんだ。深層循環の流れはものすごくゆっくりとしたものなんだよ。グリーンランドで沈み込んでから北太平洋で浮上するのになんと二千年もかかるんだよ。深層循環のおかげで深海に酸素が送りこまれるし、地球の気候が安定しているのもこの循環が一部分でかかわっているっていわれている。浮き上がるところ、湧昇流のある場所ではたくさんのプランクトンが送りこまれて、たくさんの生き物を育んでいる。海流やこの深層循環は、ずっとずっと流れ続けている。そこは風とは違うところさ!風は吹いたりやんだりしているからねぇ。風野又三郎は自慢げに六十五回もいねむりをした、なんていっているんだからね…風ってヤツはなまけものなんだよ!」

「どうしてもキミは風野又三郎を悪者にしたいみたいだね」

ってロイヤルペンギンさんがいったんです。

「いや、いや、とんでもない!」

「あいつはいい弟分だよっていいたいんでしょ?」

ってフンボルトさんがきいたんですよ。ちょっとためらってから、

「フム…僕らの間ではね、深層循環をめぐると箔がつくんだ。なかなか成功しないからね。途中であきらめちゃうことが多いんだよ。僕の大将なんか今まで三度も回った。僕も何回か挑戦したことがあるけれど、まだ成功したことがないんだ。昨日は深層循環の演習にいってきたのさ。なんていったって、深層循環は一度はじめたら成功するのに二千年もかかるんだから…。僕だって今度こそは!…今日の僕は忙しいんだった。今日もこれから演習にいかなきゃならない、それじゃあ!」

っていうと又次郎さんはそそくさと海に消えていったんです。

 

次の日。

又次郎さんはあの浜辺にこなかったんです。私めは一羽でフィリップス島の浜辺でたたずんでいると、どこからともなく、

「コガタペンギン君、さよなら!!」

って波野又次郎さんの声がきこえてきたんですよ。私めはとっさに、

「又次郎さん!さよなら!!」

って叫んだんです。きっとそれから又次郎さんは深層循環の旅に出るためにグリーンランド沖にむかったと思うんです。

 

 私めはコガタペンギンです。フィリップス島に住んでいます。二千年後かあ!私めは生きていませんよね。又次郎さんのおはなしをもうきけないのかな?又次郎さん、今度こそ深層循環の旅が成功するといいですね!