『氷を運んだペンギン』

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。

 キガシラペンギンさんがおいらのお花畑を見にきてくれたんだよ。

「りっぱなお花畑ねェ」

「うん、そうでしょう。みんなで作ったんだから…」

「いいなあ、アデリー君のお花畑は生き生きとしてて…」

「キガシラさんのところだってまわりにはお花畑なんかいっぱいあるんじゃないの?だってキガシラさんは森の中に住んでいるんだからさ!」

「私の森は人間たちがどんどん木を切りたおしちゃってね。森なんかもうなくなるすんぜんよ!それに雨が降らなくて日照りがつづいちゃって草花もかれそうなの」

ってキガシラさんは見に涙をうかべたんだ。おいらは森の中でひっそりと暮らしてるキガシラさんがそんな目にあっているなんてぜんぜん知らなかった!

「森はなくなり、草花はかれそうなの…とりあえず苗木を植えたら?」

「苗木を植えたって雨が降ってくれなくちゃあ、それもかれちゃうわ」

「塩からい海の水をやるわけにはいかないし…あっ!おいら、いいこと思いついた!この前、ガラパゴス博士が台風を大きくする機械を持ってるっていってたから、それで雨を降らせればいいんじゃない?」

 おいらとキガシラさんはイザベラ島へむかった。ガラパゴス博士は新しい機械をいじっているところだった。

「ガラパゴス博士!南極にお花畑を作ったときはたいへんお世話になりました」

「やあ、アデリー君じゃないか?その後、寒さに強くした草花はじょうぶに育っているかね?」

「もちろんです!今日は別にお願いがあって…えっと、ここにいるキガシラさんが住んでいる森にぜんぜん雨が降らなくって、草木がかれてしまいそうなんです。だから博士が持ってる台風を大きくする機械をかしてほしいんです」

「あ〜あ、あれを!役に立ててもらえるのだったらよろこんで…私もいっしょについていってかまわないかい?」

 おいらたち三羽はキガシラさんの森に、台風を大きくする機械を運んだんだ。これがすごくおもい機械でね…汗水たらしてやっと運んだんだよ!

 キガシラさんの森についてびっくりしちゃった!だって、森って呼べるほど木が生えていないんだもの。

「これはひどい!人間たちがみんな切りたおしちゃったの?」

「ええ、そうよ!あんなにたくさんの木をなにに使うのか知らないけれど…」

「それじゃあ、まずは苗木を植えようか?」

っておいらとキガシラさんが苗木を植えていると、いきなりガラパゴス博士が、

「台風よ、こい!こっちゃこい!台風よ、こい!」

って天をあおぎながら拝みはじめたんだ。

「博士!いったいなにをしているの?」

っておいらはきいた。

「台風をよんでるんだよ。こいつは台風を大きくする機械だから、もとの台風がなくてはね!”台風ごい”をしているところなんだ…台風よ、こい!」

「台風がなくちゃダメなの?」

「キミだっていったじゃないか?台風を大きくする機械をかしてほしいって。どんなに小さくてもいいんだがな!こう雲ひとつない天気だと…」

「そんなんで台風をよべるんだったら、もう”雨ごい”をしてますよ!」

「なるほど。しかしなあ、ペンギンの力をみくびってはいかんぞ!」

「おいらもペンギンだけど、ムリなものはムリだと…」

 遠いイザベラ島からおもい機械をここまで運んだのはいったい…って思ったらなんだか急につかれちゃった。でも、なんとちょうどいい具合にちっちゃな台風がこっちに近づいてきた。博士は、

「ようし!台風がここにやってくるぞ!あの台風のうずまきにこの機械から出る波を当てて、共振させて台風を大きくするのだ!」

といって、ちっちゃな台風に波を当てたんだ。みるみるうちに台風は大きくなっていってね、おいらは風でふきとばされそうになったんだ。けれど、台風はこっちの森にはこないで途中からそれて山の方へいっちゃった。おかげでキガシラさんの森にはあんまり雨が降らないで、山に大雨が降ったんだ。すると山で土砂くずれがあって、その土砂が植えたばかりの苗木とのこりわずかの森の半分を流しちゃったんだ!!このてんまつにおいらも博士もただびっくりするだけ…。キガシラさんはワンワン泣き出しちゃうし…。おいらはすごく責任感じて、また、あたらしく苗木を植えたんだ。ところが台風のあと、日照りがつづいて思うように木が育ってくれないんだ。

 どうやって雨を降らせたらいいのか?おいらはマカロニ君のところにききにいった。ちょうどケープペンギン君がマカロニ君のところにきていたんだよ。

「アデリー君、ようは苗木に水をあげたいんだろう?雨を降らせようとするんじゃなくて、氷山を森まで持っていって、それをとかして水をあげればいいんじゃないの?氷山は海に浮いているものだから水よりも運びやすいし…」

「それはいい考えだね!氷山は塩からくないしね!」

「日照りがつづいて仕方がないんだったら、バオバブの木を植えるといいよ。バオバブの木はボクが住んでるアフリカのサバンナにも生えてるくらいだから、日照りには強いんだ。むかし、星の王子様がバオバブの木がたくさんあると星がはれつしちゃう、なんていってたみたいだけれどそんなことはないから…ボク、バオバブの木の種か苗木を持ってきてあげるよ」

ってそばにいたケープペンギン君がいってくれたんだ。おいらはマカロニ君とケープペンギン君にお礼をいって、南極にもどった。氷山を引っぱるのに潜水艇を使おうと思って、ヒゲペンギンのおじさんからレッドサブマリン号をかしてもらおうとした。

「氷山を森まで運ぶのだったら、潜水艇よりもホーバークラフトの方がいいだろう」

「ホーバークラフト?」

「ああ、ホーバークラフトっていうのは水の上でも陸の上でも走れる乗り物だよ。すくなくとも、浜の上までは氷山を運ばなければいけないんだろ?」

おじさんとおいらはホーバークラフトのストラップ1世号で手ごろな大きさの氷山に網をかけて引っぱったんだ。そしてキガシラさんの森の近くの浜に氷山を運びあげた。マカロニ君とキガシラさんとガラパゴス博士が浜辺でバケツをいっぱいならべて氷をとかす用意していてくれたんだ。おいらたちは氷山をトンカチとノミでくだいた氷をバケツの中に入れて、それがとけるのを待った。日光が氷に当たってすぐに水になったよ。それをみんなで森へ運んでかれそうな苗木に水をあげたんだ。それを何度もくり返したんだよ。それからケープペンギン君がアフリカからバオバブの木の種と苗木をいっぱい持ってきてくれたんだ。さっそく、バオバブの木を植えた。バオバブの木は星の王子様がいってたように小さな星がはれつしちゃうくらい大きくなったんだ。ほかの草木もおいらたちが水をあげたから、生きかえっちゃっていつしかうっそうとした森がよみがえったんだよ!お花畑もりっぱになった。キガシラさんは泣いてよろこんで、またもとの生活にもどれたんだよ。

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。キガシラさんの森の木をもうあんまりたくさん切らないでね!