『火を消したペンギン』
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。
ある日、おいらのところにマゼラン君がやってきた。
「やあ!アデリー君」
「あ〜あ!マゼラン君じゃないの!久しぶりだねェ!今までどこにいたの?」
「ボルネオ島だよ」
「ボルネオ…また暑いところにいたんだね。そこには宝物があったの?」
「宝物っていうか、ボクはそこでオランウータンの保育園を開いたんだ。保育園は熱帯雨林のジャングルの中にあるんだ。そこには今、七頭のオランウータンの子供たちが生活している。その子たちは母親とはぐれちゃったり、死んじゃったりしたみなしごたちなんだ。オランウータンっていうのは母親から巣の作り方や木の実の食べ方なんかを教わるんだよ。保育園では孤児たちに母親代わりにそういうことを教えたりいっしょに遊んだりしているんだ」
「ヘ〜え!マゼラン君はすごいことをしてるんだね」
「そうでもないけれど…このあいだ保育園のあるジャングルで山火事があったんだ。半年間も燃えつづけたんだよ。それでなんとその火が保育園のそばまできたんだ。保育園自体は焼けなかったけれど、そばまで焼けたから、木がなくなってそのあおりで保育園が乾燥しちゃうんだ。乾燥すると今度また山火事があったときには火がまわりやすくなって、あぶないから、保育園をジャングルの奥地へ引っ越そうと思うんだよ。アデリー君、保育園の引越しを手伝ってほしいんだ」
「いいよ」
ってなわけでおいらはマゼラン君についていってボルネオ島へいったんだ。ふだん南極にいるおいらには赤道直下の密林はものすごく蒸し暑く感じたよ。保育園にたどりつくと七頭のオランウータンの子供たちが木にぶら下がったりよじ登ったりしていた。どの子も目がくりっとしていてかわいらしかったんだ。その中の一頭がおいらのフリッパーにしがみついてきた。次いでもう一頭が首にまとわりついてきた。すると残りの五頭がおいらのまわりに集まって、なんとみんなでおしくらまんじゅうをはじめたんだ。赤道直下のジャングルの蒸し暑いなかで、おいらはおしくらまんじゅうをするはめになるとはおもってもみなかったよ。あわててその中からぬけだそうとすると、最初にフリッパーにしがみついてきたオランウータンが、
「ペンギンのお兄さん!キミはペンギンなのにおしくらまんじゅうがきらいなの?」
ってきいた。
「おしくらまんじゅうが好きか?きらいか?っていうんじゃなくて、こ〜んな暑いところでおしくらまんじゅうなんかするもんじゃないよ!」
「ふ〜ん、そういうものなんだ」
「そんなの当たり前だよ!それにキミたちはこんなことして暑くないの?」
「ボクらはここで生まれたから別に…」
「優しいペンギンのお兄さんがやってくるってきいたから、あたしたち、みんなで歓迎しようと考えたことなのに…“こんな暑いところでするもんじゃない”だなんてひどいわ、“当たり前だ”なんてひどすぎる…ウェ〜ン!」
って別のオランウータンが泣き出しちゃったんだ。するとほかの六頭も一せいに泣きはじめちゃったんだよ。
「ごめんよ!ごめん、いいすぎた…おいらが悪かったよ!だからみんな泣かないでおくれよ!」
「それじゃあ、おしくらまんじゅうしてもいいんだね」
おいらはなにが悲しくて、赤道直下でおしくらまんじゅうなんかしなきゃならなかったのか?今考えてもフシギだよ。
一汗かいたあと、さっそく引越しの準備をはじめたんだ。保育園からオランウータンの子供たちをつれてジャングルをぬけて、川岸までやってきた。両岸にはマングローブが生い茂っていた。そこから川に浮かんだボートにオランウータンたちを乗せて、おいらとマゼラン君は川の中に入って泳いでボートをロープで引っ張った。そうやって川をさかのぼって、ジャングルの奥地へむかったんだ。しばらく、進むと、川岸の木のてっぺんからテングザルの長老が、
「なあ!ペンギン君、今日はみんなおそろいでピクニックかい?おちびさんたちを連れて…」
ってはなしかけてきた。マゼラン君が、
「ちがうよ!引越しだよ、この子たちの保育園を引っ越すんだよ。今までいた場所は人間たちのせいであぶなくなってきたから、もっと安全なところへうつるんだよ」
ってこたえた。
「人間たちは大昔、森をすてて森を去っていったんだ。今になってもどってきて森をこわそうとするなんて…やつらは大昔に森に裏切られたと勘違いしているのかな?森に復讐しているのかもしれない…困ったもんだな。なにはともあれ、みんな達者でくらせよ!」
ってテングザルの長老と別れたんだ。さらに川を上るとボートの上のオランウータンの子供たちがしゃべりだした。
「この辺りの川にはワニがいるんだって!」
「ホントなの?ワニがおそってきたらどうしよう?」
「きっと、平気だよ…ペンギンのお兄さんたちが守ってくれるよ」
「ペンギンよりもワニのほうが強いよ」
「そんなの戦ってみなくちゃわからないさ」
「ペンギンとワニの決闘か…その様子をビデオに撮って『実録報道24時』に投稿すれば、ボクたち有名になれるよ」
「そうすればはぐれちゃったお母さんとめぐりあえるかも…」
「ねェー、ペンギンのお兄さん、お願いだからワニと戦ってよ!」
「なんで、そうなるの?!!」
そんなこんなでどんどん川を上っていった。
「この辺りがいいだろう」
ってマゼラン君がいって、おいらたちはボートを岸へつけたんだ。運良く?ワニとは鉢合わせしなかったよ。川からちょっと森に入ったところを新しいオランウータンの保育園に決めたんだよ。そこには目印になる大きな木が生えていた。みんな、新しい保育園でひと休みしていると二羽のサイチョウが大きな翼を広げてやってきた。
「ペンギン君!ペンギン君!たいへんだ!火事だよ!山火事だ!むこうで火の手があがっているよ!ここにいちゃあぶないよ!きっとここにも火がまわってくるよ!早く逃げたほうがいいよ!それにこの前の火事は半年も続いたからね!ここもあぶないよ!」
って教えてくれたんだ。サイチョウは安全な方向に飛び去っていった。
「せっかく引っ越してきたばかりなのに…」
ってマゼラン君がつぶやいた。
「マゼラン君!火を消す方法はないの?」
っておいらはきいてみた。
「山火事を消す方法なんて…自然に消えるのを待つしかないよ!」
「そうだ!おいら、ガラパゴス博士に山火事を消す方法をこの前もらった“腕輪”できいてみるよ」
おいらは、フリッパーにはめた“腕輪”で博士をよびだしたんだ。
「博士ですか?アデリーペンギンだけど、今おいらはボルネオ島のジャングルにいるんです。そこで山火事が起こっているんだよ。だんだん火が広がっているみたいなんだ。山火事を消すいい方法を教えてくれませんか?」
「う〜ん、雨を降らせれば火は消えてくれるかもしれないな。わたしの発明品の中に雨を降らせるロケット弾っていうのがある。それじゃあ、今からわたしがそれを持ってそっちへいくよ」
ってガラパゴス博士はロケット弾を持っておいらたちのところにすっ飛んできてくれたんだ。
「この雨を降らせるロケット弾を雲の中に打ち込んで、雨を降らせるぞ!ちょうど、あの雲がいい!」
っていって博士は雲に狙いをさだめた。見事ロケット弾は雲の中で破裂したんだ。そうしたら、スコールが降ってきた。そのおかげで火が消えたんだよ!おいらたちペンギンもオランウータンの子供たちもジャングルのほかの生き物たちもみんながホッとした。
「どうして?こんなにしょっちゅう山火事が起こるの?」
っておいらがきくとマゼラン君が、
「それは人間たちが木を切ってしまうからかもしれない。木を切られた場所は乾いちゃうから火事になりやすくなるんだよ!」
っていったんだ。
しばらくして新しい保育園にオランウータンの子供たちがなれてきたから、おいらは南極へ帰ることにしたんだ。暑さにバテバテだったしね。別れのとき…オランウータンの子供たちが、
「また、今度おしくらまんじゅうをいっしょにやろうね!ペンギンのお兄さん、さよなら!!」
って手をふってくれたんだ。
「今度はもっとすずしいところでやろうよ。それじゃあね…みんな!きっと、きっと大きくなるんだよ!!」
っておいらは思わず、叫んじゃったよ。
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。オランウータンのみなしごたちは元気にしているのかな?