『犬と仲良くなったペンギン』
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。
ある時、イワトビペンギン君が息せききってやってきた。
「アデリー君!ボクがいつも遊んでいる岩場に犬がいすわっちゃって、たいへんなんだよ」
「ワンワンほえる犬が、かい?」
「そうなんだ!犬が一匹、とつぜん、あらわれておそいかかってきたんだ。ボクはかみつかれちゃいけないと思って、とっさにくちばしでつっついて難をのがれたんだ」
「どこからきたんだろう?それにどうしてイワトビ君のところにきたんだろうね」
「そんなのわからないよ!ただ、ボクのところでまだよかったのかもしれない。これがキガシラペンギンさんやハネジロちゃんのところだったら、犬にかみつかれてたかもしれないよ!」
「ホントだね!…どんな犬なの?」
おいらはイワトビ君につれられて犬がいるイワトビ君の岩場へいったんだ。岩かげからそっと犬をのぞき見た。”ふせ”をしていたけれど、大きな犬でキリリとした目をしていた。
「よくまあ、あんなに大きい犬に飛びかかってこられて、くちばしでつっついたねぇ」
「いきなりだったからボクも夢中だったんだよ」
おいらたちのやりとりがきこえたのか?犬はこっちをジロリと見た。そして立ち上がってこちらに走りよってきた。あわてておいらとイワトビ君は海へ飛び込んだ。犬は岸で立ち止まって、海を泳いでいるおいらたちを目で追っていた。
「あのままずっとボクの岩場にいすわられちゃあ、かなわないよ!あの場所はボクが昔から気に入っていたのに…あんなのがうろついていたらあぶなくて仕方がないよ!でも、キガシラさんやハネジロちゃんのところへいったらもっとあぶないし…」
ってイワトビ君がいっていると、ワオ〜ンって犬が遠ぼえをしたんだ。
「イワトビ君、なんだかあの犬、悲しそうだよ!きっと仲間とはぐれちゃったんだよ」
「ボクたちペンギンは犬のしゃべることはぜんぜんわからないし、犬の方もボクたちのいうことはわからないだろうしね」
「おいら、ガラパゴス博士に犬の言葉がわかるようになる機械を作ってくれるよう、頼んでみるよ」
「それじゃあ、ボクはあの犬のことをずっと見はってるよ」
おいらはガラパゴスペンギン博士のところへいったんだ。博士はフンボルトさんといっしょに何かの設計図とにらめっこをしているところだった。おいらはワケを話して、ペンギン語と犬語の通訳をしてくれる機械を作れないか?きいてみた。
「できないことはないが、犬の言葉のデータが足りないから簡単なやりとりしかできないよ」
って博士がいった。
「あ〜あ、もしもあたしのところに犬がきたらどうしようかな?」
ってフンボルトさんが心配してたんだ。だからおいらは、
「フンボルトさんなら心配しなくても大丈夫だよ。トラとライオンとドラゴンがいっぺんにおそいかかってきても、そのずうずうしさで何とかなるよ!」
ってついいっちゃったんだ。
「あんた!!それどういう意味よ!あたしにケンカうってんの!ひっぱたかれたいの?あたしってこう見えてかよわいのよ」
おいらは『かよわいなんてことないよ!』っていいたかったけど、これ以上フンボルトさんを怒らせたらホントに何されるかわからないから心の中にとどめておいたよ。
数日後…。
ガラパゴス博士が犬の言葉を訳す機械を作ってもってきてくれたんだ。おいらはその機械を持ってイワトビ君の岩場へいった。なんとイワトビ君はあの犬とここ数日間で仲良くなっていたんだ。イワトビ君は犬のために魚やほかの食べ物を持ってきてあげているうちに、いっしょに遊んだりお昼寝するようになったんだって。それで犬と仲良くなったんだってさ!
「イワトビ君!ガラパゴス博士が犬の言葉がわかるようになる機械を作ってきてくれたんだよ。さっそくためしてみようよ!」
おいらは機械のマイクに向かって、
「こんにちは!」
って犬に呼びかけると、機械のスピーカーから、ワン!って音がしたんだ。今度は犬がマイクに向かって、『ワン!』ってほえるとスピーカーからペンギンの言葉で、
「こんにちは!」
ってかえってきた!おいらはおどろいちゃったよ!!
「ボクの名前はイワトビペンギン。きみは?」
ってマイクに向かってしゃべった。そうしたら犬が『ワン、ワン、ワン!』ってほえた。
「犬のシロ」
ってスピーカーから返事がきた。
「シロって名前なんだ…どこからきたの?」
っておいらがきいてみた。
「日本…」
「日本!ずいぶん遠くからきたんだね!どうやってきたの?」
ってイワトビ君がたずねたんだ。シロはマイクに『ワン、ワン、ワン、ワン、ワン!…』ってずいぶん長くほえてたけれど、機械のスピーカーからはただひとこと、
「船で…」
としかでてこなかったんだ。
「あんなに長くほえてたのに『船で…』のひとことかい?」
ってイワトビ君がいうからおいらが、
「そういえば、ガラパゴス博士が簡単なやりとりしかできないっていってたよ」
ってこたえた。
「簡単なことかあ?…日本に帰りたいかい?」
ってイワトビ君が質問したんだ。
「もちろん!」
ってシロがいったんだよ。
「せっかく友達になったけれど…日本へ返してあげなくちゃね」
ってイワトビ君はちょっぴり悲しそうにいったんだ。
イワトビ君は飛行船のエンペラーツェッペリン号をコウテイペンギンさんからかりてきた。イワトビ君と犬のシロとおいらはエンペラーツェッペリン号に乗って日本へむかった。飛行船が宙に浮いているあいだずっとシロはキャンキャンはしゃいでた。イワトビ君もそれにつられてシロとじゃれてた。でも、イワトビ君はなんだかさみしそう。シロと別れたくないのかも…。ようやく日本に到着した。シロがガラパゴス博士の機械をとおして、自分の仲間がいるところへ案内したんだ。そしてエンペラーツェッペリン号は原っぱに着陸したんだ。すると、どこからともなく10匹たらずの犬があらわれたんだ。シロの仲間だった。シロは飛行船から飛び出していった。
「シロ!よかったね!でもボクのこと忘れるなよ!」
ってイワトビ君が機械のマイクに向かっていったんだ。
「ワン、ワン、ワン!」
ってシロがこたえてくれたんだけど、機械をとおさなかったから何ていったのか?ペンギンのおいらにはわからなかった。けど、イワトビ君が髪を逆立ててうなずいてた。
「イワトビ君!シロのいったことがわかったの?」
「わからないさ!でも、『ぜったい忘れないよ!』っていってくれたんだと思うよ!」
エンペラーツェッペリン号で南極へ帰る途中、
「シロってかわいい犬だったよね!」
ってイワトビ君がしょんぼりつぶやいたんだ。
「はじめはこわかったけれど、いいヤツだったよね…せっかく仲良くなったのに、残念だったね」
「まあね、でも、これでいいんだよ!犬とペンギンはいっしょに長くは過ごせないし、犬は犬の仲間といる方がいいんだ。ボクにだってたくさんのペンギンの仲間がいるんだからさ!」
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。シロは遠い遠い国で今、何をしているのかな?