『枝打ちをしたペンギン』

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。

 ガラパゴス博士が枝打ちロボットを発明したんだって。枝打ちっていうのは木の下の方の枝を根元から切り落とすことなんだ。ロボットの発表会をビクトリア先生が住んでる森の近くで開くっていうから、おいらはその森へいったんだ。もうみんな会場に集まってた。

「ハックション、ちくしょう!ハッハクション、こんちくしょう!」

ってヒゲペンギンのおじさんがくしゃみを連発していたんだ。

「おじさんは花粉症なの?」

「イヤ、そんなことはないはずなんだが…ハクションちくしょうめ!」

「どうしてくしゃみのあと”ちくしょう”っていうの?なににおこってるの?」

「それはくせみたいな…ハックション、ちくしょう!もので意味は…ハクション、ちくしょう!別に…ハッハックション、こんちくしょうめ!!!」

っておじさんとしゃべっていると、ハネジロペンギンちゃんがごついゴーグルとガスマスクみたいなのをしてあらわれた。おいらは、

「ハネジロちゃん!そのカッコウどうしたの?軍人さんにでもなるの?」

っていったら、

「私だって好きでこんなカッコウしてるんじゃないわよ!!」

バチン!!

「イタッ!!」

ってハネジロちゃんにおいらはほっぺたを思いっきりぶたれちゃった!

「ハネジロちゃん!ごめんよ!ほんのじょうだんだよ!」

ってあやまったんだけど、ハネジロちゃんは会場から走り去って自分の巣に帰っちゃったんだ。それを見ていたフンボルトさんがおいらにいったんだ。

「あんたってホントに女心がわかってないペンギンねェ。ハネジロちゃんは花粉症だからこの季節にはああいう風にしてなくちゃならないのに…ちょっとは痛い目にあって学習すればいいのよ!…クシュン!」

「フンボルトさんまで花粉症なの?」

「そうじゃないわ!このくしゃみはきっとあたしのマカロニさんがあたしのことをうわさしてるのよ!スキならスキって直接いってくれればいいのに…ホント、マカロニさんたらはにかみやなんだから…」

「そんなことはないと思うけどな…」

「ちょっとあんた!今なんかいった?」

「いえ、べつに…」

「いいたいことがあったらはっきりいいなさいよ!まったくあんたっていうペンギンは優柔不断なんだから!!」

ってフンボルトさんにいわれたけど、いったいどこからどこまでがはにかみやで、どこからが優柔不断なのか?おいらにはさっぱりわからないよ。やっぱり”女心”ってむずかしいんだな!

 そうこうしてる内にガラパゴス博士がタイヤのついた枝打ちロボットらしき機械を引っぱってあらわれた。ガラパゴス博士はいつもは白衣を着ているのになぜか今日はタンクトップを着てたんだ。とうとつに博士が、

「さあ!これからみなさんに紹介する発明品はこちらだ!!そう!今世紀最高の発明品、枝打ちロボットだあ!…やあベティ!今までの枝打ち作業はたいへんだったよねぇ!」

っていうと、フンボルトさんが、

「ええ博士!枝打ちっていうのは高さ3メートルくらいまでの枝を切り落とすことなんだけれど、そこまで専用のはしごで登っていってナタやらノコギリやらをふるわなければならなかったのよ。女のあたしには重労働だったわ。それにスリキズやキリキズがたえなかったし…」

ってこたえただ。

 いつもの博士としゃべり方もみぶりもノリもまるっきりちがうし…いつからフンボルトさん、ベティになったの?それにあのオーバーなリアクションは??まわりをみると、みんなあっけにとられてる!博士が、

んな重労働からあなたを解放してくれるのが今回の発明品、枝打ちロボットなのさ!さっそくこのロボットをためしてみようか?ちょうどそこに手ごろなヒノキがあるよね。それじゃああの木を枝打ちしてみようか?ふつう枝打ちっていうのは秋から冬にかけてやるもんだけど、一本くらいならいいよね。ベティ!悪いが枝打ちロボットをこのヒノキの根元までもってきてくれないかい?」

ってつづけただ。

「わかったわ!博士…まあ、なんて軽いんでしょう、このロボットは!あたしがもっている旅行用のキャスターバックよりも軽いんじゃないのかしら?」

「そっ、そうなんだ!このロボットのいいところのひとつはすごく軽くできてるところなんだ。だからかよわいベティでも軽々持ち運べるよね…よしいいぞ!ベティ…ヒノキの根元にロボットをセットできたね!あとはここのボタンを押すだけだ。ベティ、押してごらん?」

 ベティになったフンボルトさんが枝打ちロボットのスイッチを入れたんだ。するとロボットがヒノキの幹に巻きつきながら登っていった。つぎつぎと横枝をはらっていったんだ。3メートルくらいの高さまで枝打ちをしながら木を登っていった。すると、とつぜんロボットがとまったかと思うと、今度はヒノキを勢いよく降りて地面に着地しただ。

「どうだい、ものの1分で枝打ちできたろう?このロボットは高さをきちんと測って枝打ちするんだ。だから3メートル以上のところの枝は切り落とさないのさ!」

「ホントだわ博士!まあ!なんてかしこいロボットなんでしょう!あたしのペットにしたいくらいだわ」

「おいおいベティ!ペットだってこんなに働きゃあしないよ!」

「今ご紹介した発明品、枝打ちロボット!今なら専用収納ボックスに高枝ばさみ3本と、ななんと当社特製炭焼きがまをおつけします。今すぐフリーダイヤル0120×××の○○○へお電話を…0120×××の○○○へ…みんなあ然としちゃってるじゃないの!だからあたしははじめからこんな寸劇みたいなことやりたくなかったのに…」

「だがフンボルトや、私のはなしは長くてつまらないっていうから、趣向をかえてテレビの通販番組風に発表してみたんだが…これでも夜遅くまでテレビを見て研究したんだがな」

ってやっとふだんのガラパゴス博士とフンボルトさんにもどっただ。王様が、

「いったい、なんの商品の通販番組をみただい?」

ってきいたんだ。

「はて?たしか筋肉トレーニングとか?健康器具とか?」

「そりゃあ、みた番組が悪かったな!」

「は〜あ」

「でも、その枝打ちロボットは重宝しそうね!」

ってビクトリア先生がいって、さらに

「人間たちはまず森の木をかって、それから新たに木を植えてくれるまではいいのだけれどスギならスギばっかり、ヒノキならヒノキばっかり植えていってしまうの。ヒノキばっかり生えている森なんて自然の森にはないのにね!それでもきちんと木が育つまで面倒を見ればいいだけれど、人間たちは気まぐれである日とつぜんとちゅうで森の世話をやめちゃうのよ。ヒノキ林は枝打ちしないと日光がヒノキの枝にさえぎられて地面までとどかなくなるの。そうすると、下草がえてこなくて土がむき出しになるからちょっとした雨がふってもすぐに土が雨水に流されて土砂くずれが起こりやすくなるし、ヒノキ林の近くの川ははんらんしやすくなっちゃうのよ。だからヒノキ林には必ず枝打ちをして、下草を生やさなくちゃならないのに…。でもそのロボットがあれば、かんたんに枝打ちができそうよね。博士!今年の秋にその枝打ちロボットをかして下さいね!」

ってたのんだんだ。つづけてシュレーターペンギン先生が、

「スギ林も枝打ちは必要なんだよ。ハネジロちゃんがあんなにおもい花粉症になったのもひとつにはスギ林の枝打ちをしなかったからかもしれないんだ。秋に枝打ちをしておけば、春にスギ花粉が飛ぶ量がへるからスギ花粉症も少しはよくなるはずなんだが…あれれ?さっきまでハネジロちゃんはここにいたはずなのに?」

っていったんだ。

「それはあんたのせいよ!」

っておいらにむかってフンボルトさんがどなって、

「マスクとゴーグルをしているハネジロちゃんに軍人さんにでもなるの?なんていうから」

ってみんなの前でいったんだ。

「おいら、悪気があっていったわけじゃあ…」

っていいわけしよとしたんだけれど、

「まったくアデリー君たらデリカシーのかけらもないんだから!」

「ハネジロちゃんにちゃんとあやまった方がいいぞ!」

ってみんなに責められちゃった。

 さっそくおいらはハネジロちゃんの巣へいって、秋にスギ林の枝打ちをするから許してってあやまったんだ。というわけでおいらはスギ林やヒノキ林の枝打ちをすることになったんだ。みんなも手伝ってくれた。ガラパゴス博士の枝打ちロボットも活躍したから、冬になるまでになんとかひととおり枝打ちをやり終えただ。かった枝は特製炭焼きがまで炭にしたんだ。それをヒノキ林の地面にまいた。今ではヒノキ林にはうっそうと下草がはえてきたんだよ。だから台風がきてもヒノキ林のところの川がはんらんしなくなった。それからねハネジロちゃんはスギ林の枝打ちのおかげで花粉症が少しよくなったみたいなんだ。だって今年の春は去年のガスマスクからふつうのマスクにかわってたからね!ハネジロちゃん、これでおいらのことかんべんしてくれるかなあ?

 

 おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。”女心”ってホントにマカフシギだよね!