『オキアミを食べたペンギン』

 

 ボクはマカロニペンギン。ホーン岬に住んでいる。久しぶりだね!今回も友達のアデリー君にかわってボクがお話しするね。

 このごろアデリー君、元気ないんだ。うつむいてばっかり…それにエサもあんまり食べてないみたい。そのことで、ペンギンがみんな集まって話しあったんだ。

ヒゲペンギンさんが、

「アデリー君が元気がないってきいて、昨日オキアミをもっていったんだが、アデリー君食べたくないなんていうんだ」

っていったんだ。

「なに、あの食いしん坊のアデリーが食べたくないだって!?それは重症だな!!」

って王様がいったんだ。するとスネアーズペンギンじいさんが、

「それはなにか悪いことが起こる前ぶれかもしれん。よし!さっそく占ってみるか」

って占いを始めようとしたから、

「占いなんかあとにして下さいよ!」

ってボクがいってやめてもらったんだ。

「おおかた急に色気づいてダイエットでも始めたんじゃないのかしら…ひょっとしたらあたしに恋しちゃったのかも…あたしにはマカロニさんっていう未来を約束したペンギンがいるのに…やっぱり美しいって罪なことね!ねぇ、マカロニさん」

ってフンボルトさんがいった。

「約束なんかした覚えはボクには…」

「あたしってホントに罪作りなペンギンだわ!」

「なんでもクジラのパーティーにいってから、おかしくなっちゃったんだって」

ってビクトリア先生がいうと、

「それじゃあ、ザトウクジラのあの歌声で脳みそがとけちゃったのかもしれんぞ!」

ってヒゲペンギンさんがいったんだ。

「ちょっとみんなまじめに考えてよ!」

「そうよ!マカロニさんのいうとおりだわ!!」

「フンボルトさんこそまじめにしてよ!!」

「マッ…マカロニさん、ごっ、ごめんなさい!あたしのこときらいにならないでね!ウッ、ウェ〜ン!」

「あ〜あ!マカロニ君、フンボルトさんのこと泣かせちゃったよ!…あれれ?どうしてキガシラさんまで泣いてるの?」

「だって、だって私、生まれて初めてフンボルトさんの涙を見たんだもの…」

「どっ、どうして話がそれていっちゃうの??」

「まあ、私がいって様子を見てこよう!」

って王様がいってくれたんだよ。さっそく王様は南極へいったんだ。

 

「アデリーなにをそんなに落ち込んでるんだ?」

って王様がきいたんだ。アデリー君はうつむきながら、

「王様!おいら、なんだか世の中がイヤになっちゃいましたよ」

ってこたえた。

「世の中がイヤになっただって?アデリーらしくもない…いったいどうしたっていうんだ?」

「この前おいらはクジラのパーティーにでたんですよ。その最後にコククジラの一家が、私らはふえすぎちゃったから天国へいくんだよ、なんていいだしたんだ。もうこれ以上オキアミやら小魚やらを食べるとほかの生き物にめいわくをかけるからって、自分から浜へ打ち上げられて一家そろって死んじゃったんだよ!コククジラのおばさんは死ぬ前に、地球上の生き物はみんな食う食われるの見えない鎖でつながってるっていってた。でもそれは弱肉強食だってことでしょ?そんな世の中で生きていてもしようがないし、それにおいらはふつうのペンギンよりも食いしん坊だから、ほかの生き物によけい多くめいわくをかけちゃうから、もうなにも食べずに死ぬんだ!イヤ、死にたいんだ!!」

「フム、そうか!アデリーちょっとつきあえ!」

って王様はアデリー君を海の中へ連れだしたんだ。

 ちょうどクエっていう大きな魚が大口をひらいていたんだ。それを王様とアデリー君は岩かげからそっとのぞいてたんだって。するとベラっていう小魚がクエの口の中へ飛び込んでいった。アデリー君は、

「ベラ君、そんなところに入ったらクエに食べられちゃうよ!」

って呼びかけて岩かげから飛び出そうとしたんだ。王様はアデリー君をおさえながら、

「クエは決してベラを食べたりはしないから心配しなくていいんだよ」

っていったんだ。

「えっ!どうして?」

「クエはベラに歯のそうじをしてもらってるんだ、そしてベラはクエのエサのおこぼれをもらっている。これはおたがいに助け合ってるんだよ。こんな例はほかにもウツボとエビや、サンゴとテッポウエビやサンゴガニ、クマノミとイソギンチャクなんかがある。彼らは弱肉強食というのではなくて、おたがいに協力しあって生きているんだ。この世の中弱肉強食ばかりではないってことさ。それにアデリー、生き物はなんでものを食べるんだ?」

「えっ?それは食べないと死んじゃうから…」

「そうだな。食べるものは食べられるものから生きるためのエネルギーをもらっているともいえるな。われわれペンギンは、オキアミや小魚から生きるためのエネルギーをもらって、もしもサメやシャチに食べられれば、それらにエネルギーをあげたことになる。サメやシャチだってやがては死ぬし、ペンギンだってだれかに食べられなくても病気で死んだりする。その遺体はほかの生き物のエサになったり、そうはならなくてもやがて微生物に分解される。そうして分解されたものは植物プランクトンのエサになり植物プランクトンは動物プランクトンのエサになる。そのプランクトンはペンギンのくちばしの中に入って生きるためのエネルギーは生きいているうちに使い果たしてしまうけれど、その元になるものは一周してまたもどってくるんだよ。一見、一方通行でしかない弱肉強食の世界でも見方を変えれば、食う食われるの目に見えない鎖を通して生きるためのエネルギーの元がぐるぐるまわっているんだ。これはおたがいに助け合ってることにはならないだろうか?ペンギンが地球上にあらわれて4,500万年、今までエサに事欠かないで生きてこられたのは生きるためのエネルギーの元がたえずまわってるからなんだ。けれど食う食われるの目に見えない鎖はびみょうなバランスでつながっている。だからこそコククジラの一家は、そのバランスをくずして鎖を切ってしまわないように、あんまり賛成できることではないが、自ら命をたったんだ。このことでだれも責めることはできないのだよ。一番問題なのは、地球上に生きるものすべてが食う食われるの鎖につながっているのに、そのことを忘れてしまうことなんだ。地球上でもっとも進化した生き物だなんて自分からそういって、わが物顔でふるまってるヤツらが一番あぶないんだ!だからそのことをわれわれペンギンは忘れないようにしなくてはね!アデリー、お前だって食う食われるの鎖をつないでいくために食べなくちゃならないんだよ」

「オキアミさん!そんなところにいたらおいらに食べられちゃうよ…こんなおいらに食べられてくれるかい?」

っていってアデリー君はパクリとひとくちオキアミを食べたんだ。けれどもアデリー君ちゃんとなっとくしたわけじゃないみたい。

 

 ボクはマカロニペンギン。ホーン岬に住んでいる。この世の中まだまだすてたもんじゃないよね!