『銅像をたてたペンギン』
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。
ある日、おいらのところにマカロニペンギン君が遊びにきていたんだ。
「アデリー君!ケープペンギン君がジャイアントペンギンさんの銅像をつくったんだってさ。これからいっしょに見にいこうよ」
「へ〜え、ケープペンギン君が…よし、いこう!」
おいらはマカロニ君につれられて、ケープペンギン君が銅像をたてたっていうアフリカの喜望峰へいったんだ。ジャイアントペンギンさんの銅像はホンモノそっくりで背丈もM−777星団にいる大きなジャイアントペンギンさんとおんなじなんだ。けれど、おいらたちが銅像のところへいってみると、そのそばでケープペンギン君が泣いていたんだ。
「ケープペンギン君!どうしたの?」
「マカロニ君にアデリー君…見てよ。ボクがたてたジャイアントペンギンさんの銅像が泣いてるんだ!」
ケープペンギン君いったいどうしちゃったの?いくら何でも銅像が泣くわけないだろ!と思って、見上げるとなんとジャイアントペンギンさんの銅像の両目から真下に涙が流れたあとがくっきりついていたんだ!おいらは信じられなくて、
「ケープペンギン君!銅像をつくるときにつけたんじゃないの?」
ってきいたんだ。
「そんなことするわけないだろ!なんでわざわざ泣いている顔を銅像にしなくちゃならないんだよ!それにたしか、おとといまでは何ともなかったのに…」
「きっとだれかの悪いいたずらだよ」
「いいや!これは雨のしわざだよ!」
ってマカロニ君がいいだした。
「ちょっと前にガラパゴス博士からきいたことなんだけどね。ちかごろ、毒の雨が降るんだって…なんでもその雨は木を枯らしたり、そう、銅像なんかをとかしちゃったりするんだって…ねえケープペンギン君、きのう雨が降らなかった?」
「きのうは一日中、雨だったよ。今朝になってようやく晴れてきたんだ」
「ほら、こっちの背中のほうを見てごらんよ!ここにもほっぺたのところとおんなじあとがついてるよ」
マカロニ君のいうとおり、銅像の背中に3本のすじがついていたんだ。
「毒の雨が銅像をとかしたのか!」
「それじゃあ、これからも雨が降るたびにせっかっくボクがつくった銅像はどんどんとけてっちゃうの?」
ってケープペンギン君が心配そうにいったんだ。
「なんとかしないといけないね。毒の雨のことはガラパゴス博士がいってたんだよね…博士に相談してみようか?」
っていうことで、おいらたち三羽はガラパゴス博士のところへいったんだよ。
博士はフンボルトさんと大きな機械で小さな旗を作っているところだった。その旗は三角でシルエットのペンギン印が入っていたんだ。さっそくマカロニ君がジャイアントペンギンさんの銅像が毒の雨でとけだしてしまったことをいってから、
「博士、毒の雨っていったいなんなのですか?」
ってきいたんだ。
「あ〜あ、酸性雨のことかい?酸性雨っていうのはお酢みたいにすっぱい雨のことだよ。雨はふつう、そんなにすっぱいことはないんだが、空がよごれていると、雨が空から降ってくるときによごれをとりこんですっぱくなってしまうんだ。そしてすっぱくなった雨はいろいろワルさをするわけだ」
って説明してくれた。
「すっぱい雨か…おいらは酢の物もきらいだしな!スバスになますに菊花カブ、酢ゴボウそれにモズク酢!」
「あんたの食べ物のすききらいはどうだっていいのよ!もっとまじめになさいよ!」
っておいらはフンボルトさんにしかられちゃった。
「どうして雨がすっぱくなっちゃうんですか?」
「さすがはあたしのマカロニさん!どっかのだれかさんとはいうことが大ちがいよね!それにしてもマカロニさん!久しぶりよねぇ…あら、マカロニさん目をうるませちゃって…なんだかあたしまでまぶたが熱くなってきちゃったわ」
ってフンボルトさんがマカロニ君のフリッパーをつかんだ。
「ちっ、ちがうよ、さっきからボクは目がしょぼしょぼしてチカチカして…」
「なんかそういわれてみるとおいらまで目がしょぼしょぼしてきた」
「なんであんたまで目がしょぼしょぼするのよ!あたしとマカロニさんの仲に入ってこないでよ!」
「そんなこといわれたって…」
「フンボルトや、それはスモッグのせいだし、酸性雨もスモッグも人間たちがたてたエントツからでるけむりが原因だ!」
って博士がこたえてつづけたんだ。
「けむりの中に雨がすっぱくなるものやスモッグのもとが入っているのだ。けむりといっしょにそれを空にばらまくから、雨がそれをとりこんですっぱくなるし、スモッグのもとが日光にてらされると毒のけむりや霧ができるんだ!そこでこの小さな旗が役に立つ」
ガラパゴス博士はできあがったばかりの旗をとって、さらに、
「この旗はけむりの中にある”酸性雨のもと”や“スモッグのもと”を吸いとってくれる!これをエントツの先っぽにたてるだけでいい」
っていったんだ。
「博士!せっかくあたしとマカロニさんが淡いロマンスにひたろうとしている時に、酸性雨だ!スモッグだ!っていわないでよ!」
「しかし…フンボルトや」
「マカロニさんだってそうは思わない?」
「博士、その旗をたてるだけですっぱい雨は降らなくなるの?」
ってケープペンギン君がきいた。
「ああ、理論的にはそうなんだが、今たっているエントツすべてにこの旗をたてなきゃあならない!世界中にいったいいくつのエントツがあるのやら…それから”酸性雨のもと”や“スモッグのもと”を出すのは実はエントツだけじゃないんだ!クルマやバイクも出すんだ。だからそれにも旗をたてなくちゃいけない!さいわいこの機械は小さい旗をいくつでも作ることができるが、エントツやクルマの全部に旗をたてるとなると数が多すぎてすごくたいへんだ!そこが一番の問題点だな!」
「旗をたてないと酸性雨が降ってきてジャイアントペンギンさんの銅像はどんどんとけちゃうんでしょ?やらなきゃしかたがないじゃない!」
ってケープペンギン君がさけんだんだ。おいらはビックリしちゃったよ。だって、ふだんおとなしいケープペンギン君があんな大声を出すんだから。
「もう、みんなであたしたちのじゃまをして…でもマカロニさん、じゃまが多いほど熱く燃えるものよね!」
「えっ、なにが…?」
「まあ、あたしのマカロニさんたらてれちゃって…」
ペンギンみんなで手分けして、エントツやクルマにちっちゃな旗をたてることにしたんだ。人間が旗を見てへんに思っちゃいけないから、なるべく気づかれないようにしてね。エントツのてっぺんに旗をたてるときは、飛行船を使った。クルマやバイクに旗をたてるときは夜中にこっそりと。みんなが旗をたてているあいだにケープペンギン君は銅像の雨よけに大きなカサを作って銅像にたてかけだ。そのカサは三角の小旗で取りきれなかった“酸性雨のもと”や”スモッグのもと“をお日様の力をかりてバラバラにするはたらきを持ってる特別せいだったんだ。だから銅像はとけなくなった。そして”酸性雨のもと”や”スモッグのもと“を出すものにあらかた三角の小旗をたてたんだ。そうしたらすっぱい雨は降らなくなったし、目もチカチカしなくなった。ケープペンギン君は、ジャイアントペンギンさんの銅像をなおして大きなカサをとっぱらったんだ。ケープペンギン君は銅像が前よりきれいになって、なんだかりっぱになったって大よろこびしてた。
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。エントツにペンギン印の三角の小旗がたっていたら、それはおいらたちがたてたんだよ!