『翼で飛んだペンギン』
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。
ある日、おいらはぼんやり空をながめていたんだ。アホウドリが一羽、気持ちよさそうに飛んでいた。おいらたちペンギンは鳥なのにどうして空を飛べないのかな?と考えていると、アホウドリがおいらの目の前にとまって話しかけてきたんだ。
「アデリー君!キミはいいなあ!海の中を自由に泳げてさ!鳥の仲間で一番泳ぎが上手なんじゃないの?あんなに速く泳げるんだったら、お魚なんかたくさんとれるんだろうね」
「そのかわり、おいらは鳥なのに空を飛べないんだよ」
「でも飛行船があるじゃない」
「あんなに大きなものを使わなくちゃあ飛べないなんて…もっと手軽に自由に飛びたいんだよ!!風を切ってスイスイと…」
「それにしても海の深いところはどうなってるのかなあ?」
「そんなにいうんなら、おいらのおじさんが潜水艇を持っているんだ。それに乗って海の深いところへ行けばいいんじゃない?」
「潜水艇?それに乗せてくれるの?」
「うん、ヒゲペンギンのおじさんにたのめば、乗せてくれると思うよ!」
おいらとアホウドリ君はヒゲペンギンのおじさんのところへ行ったんだ。
「やあ、アデリー君、久しぶりだねェ。ちょうど一年前に会ったきりだよなあ」
「おじさん!お願いがあるんだけれど…潜水艇に乗せてほしいんだ!アホウドリ君もいっしょに!」
「ああ、いいとも。それじゃ、ここで少し待ってなさい!レッドサブマリン号の準備をしてくるから…」
それからおいらたちはおじさんの潜水艇・レッドサブマリン号で海中散歩を楽しんだんだよ。アホウドリ君はすごく気に入っちゃってさ!!
「わあ、すごかったなあ!きっとボクがアホウドリ一族の中で、一番長くてしかも深く海にもぐったんだよ。海の中っておもしろいよね!珍しい魚がいっぱいいて…今日はどうもありがとう。また乗せてね!…アデリー君!そういえば空を飛びたいっていってたよね?ボク、キミのために翼を作ってきてあげるよ!」
「ホントかい?うれしいな!」
このやりとりを聞いていたヒゲペンギンのおじさんが、
「すまんがアホウドリ君!ワシの分の翼も作ってくれないかい?」
ってたのんだんだよ。
「おじさんも飛びたいんだね。うん、いいよ!おじさんの分も作ってくるよ!!今日は本当のありがとう…」
っていい残してアホウドリ君は飛び去ったんだ。
三日後、アホウドリ君は大きな袋をくわえてやってきた。
「約束の翼を持ってきたんだ。羽根をニカワでかためて…」
っていいながら袋の中から4枚の翼を出して見せてくれた。さっそくおいらはおじさんを呼んできて、三羽で氷山のがけっぷちに行ったんだ。両方のフリッパーに手袋のようにして翼をつけて、いざ!出発!!って飛ぼうとした。でも、がけがあんまり高かったから、足がすくんじゃった。それを見てとったヒゲペンギンのおじさんが
「まあ、これでも飲んですこし落ちつきなさい」
って小さなビンを差し出してくれたんだ。おいらは小ビンのキャップをあけてそれを一気に飲みほした。小ビンのなかみは少ししか入っていなかったけれど、急に口の中がすごく熱くなって、そのうちだんだん体中があったかくなってきたんだ。頭もクラクラしてきて…でも、気が付いたら、なんと!おいらはもう、おじさんとアホウドリ君のあとについて翼で空を飛んでたんだよ!!ほてった顔に冷たい風があたって気持ちよかった。下を見るとぐんじょう色の海、上はどこまでも青い空、ふりむくと雪と氷におおわれた白い大陸がちっちゃく見えた。空からのながめって、なんてきれいなんだろう!って感心していると、
「バッカヤロー!!どこ見て飛んでいやがる!」
あともう少しで、茶色いオオトウゾクカモメさんとぶつかるところだったんだ。
「ごめんなさい!おいら、今日はじめてこの翼で飛んだんだよ!まだなれてなくて…」
オオトウゾクカモメさんは身をひるがえして、
「おう!!ふとっちょのペンギンが空を飛ぶなんて…時代も変わったもんだな!しかもおめえら、酒くさいぞ!!酒よい飛行かい?ペンギンってヤツはタチが悪いなあ!!」
そういってどこか行っちゃった。!オオトウゾクカモメさんに”タチが悪い”なんていわれたくなかったな…。
しばらく風にのっていると、おいらは海が赤くなっているところを見つけたんだ。夕方でもないのにどうしてかな?と思っておじさんにきいてみた。
「おじさん!どうしてあそこの海だけ赤いの?」
「ありゃあ、赤潮だ!すぐに潜水艇にもどらないと」
って、ヒゲペンギンのおじさんはいきなりUターンしたんだ。おいらとアホウドリ君はおじさんについて行ったんだ。
「赤潮ってな〜に?どうしてもどるの?」
っておいらはきいたけど、おじさんは何も答えてくれなかったんだ。岸が近づいてきて、おじさんは大声でいった。
「アホウドリ君!どうやっておりるんだい?着陸の仕方だけど…」
「着地のやり方って?」
「ほら、コツとか何とか…ないのかい?」
「ボクは着地するのにコツとかやり方とか考えたことないよ!いつも自然におりてるよ」
「自然にか…アデリー君!着地するより着水する方が安全だと思うんだが…」
「えっ?着水?」
「そうだ!海へ!!」
といって、おじさんはジャボ〜ン!って海へつっこんだ。おいらもマネししてジャボ〜ン!ってつづいて着水っていうより海へ落ちた感じだな。せっかくアホウドリ君が作ってくれた翼はバラバラになちゃった。そして岸まで泳いで、レッドサブマリン号のところへ急いだんだ。おじさんは一足先についていて、潜水艇に物々しい機械を乗せているところだった。
「おじさん!それなんだい?」
「これは海の中に空気を送りこむポンプだよ」
「ポンプ?なにに使うの?」
「赤潮を分解するんだ。赤潮ができると、海の中の空気がなくなってしまうんだ!だから、そこに住んでる魚やオキアミはちっそくで死んでしまうんだ!もしも赤潮が海全体に広がってみろ!海の魚はぜんめつだ!だからこれから、空気を送りこんで赤潮を分解しにいくんだ!」
ポンプを乗せたレッドサブマリン号はもぐらないで水上を走った。
「ところで赤潮はどっちだった?」
って、おじさんがきくんだ。
「空を飛んでるアホウドリ君にまた見つけてもらおうよ!」
アホウドリ君は心配して、ずっとおいらの上を飛んでいてくれたんだよ。
「そうだな!!お〜い、アホウドリ君!赤潮はどっちにあるのか?教えてくれ!」
おじさんはアホウドリ君についていった。そして赤潮のところまでやってきたんだ。お魚がたくさん、白いおなかを見せて浮いてたんだ。おいらもお魚を食べるけど、お魚もこんな死に方をするとは思わなかったろうな!ホントにこれはたいへんだ!!って思ったよ。潜水艇は赤潮の中に入ってポンプで空気を送りこんだ。みるみるうちに赤潮は消えてなくなちゃったんだ!
帰り道、赤潮がなくなったから、お魚さんがぴょんぴょんはねて喜んでるのが見えたんだよ。
それにしても、おいらの翼での初飛行はさんざんだったな!お酒のいきおいで飛び出したからその時のことをあんまり覚えていないし、オオトウゾクカモメさんにはタチが悪いなんていわれるし、せっかくの翼は着水でバラバラになっちゃうしね!でも、アホウドリ君がまたおいらとヒゲペンギンのおじさんのために、翼を作ってきてくれたんだよ。
おいらはアデリーペンギン。南極に住んでいる。おいらはちかごろ毎日、翼で飛ぶ練習をしてるんだよ!