紅簾石 (Piemontite)
Ca2(Al,Mn3+,Fe3+)3(SiO4)3(OH)
神奈川県美保ワリ沢(悪沢)
丹沢は新第三期にできた結晶片岩が露出する世界で唯一の場所である。従って、ここの変岩類は全て世界でここだけの物と言えると思う。その中でも紅簾石を含む紅簾片岩は国内でも多くはなく、海外にいたってはかなり稀になる。
丹沢の紅簾石は伊豆半島が日本列島に衝突した際に形成された結晶片岩の一部に見られ、湖周辺に4カ所ほどいずれもごく小規模の露頭が確認されている(そのうち2カ所は湖底に沈んでいて、もう2カ所がここにある)。それ以外では表丹沢の玄関から少し入った背戸の沢にある大日鉱山(マンガンを採掘していた)でも見つけられる。
ここの周囲は脆い緑泥石緑色片岩が分布し、その中の一部に紅簾石を含む部分があり、沢に転石が落ちている。露頭の物よりも転石の物の方がしっかりしている。左側の標本が転石のもので横幅は7cm。肌色で脈状に入っているものはおそらく方解石。
ここは周囲の露頭が比較的もろく、細かい石が時折音を立てて崩れてくるので何となく長く居たくないような場所である。また狭い沢なので雨天時に立ち入ることは勧められない。もっともこの沢の入り口はダムの満水時にはボートがないと入れない。
マンガンを含む緑簾石の仲間で濃い紅色をしている。丹沢の物は非常に細かい針状の結晶集合体で結晶一つ一つが細かいため紅簾石としては明るい色をしている。転石の物は結晶面などが良くわからないが露頭の物の方はルーペで見るとセリサイト(絹雲母・この写真では光をよく反射して白く写っている)に埋まった結晶の集合体が見えてくる。右側の標本が露頭のもの。ただ、露頭の物はバラバラと崩れやすく取り扱いに苦労する。
このワリ沢と悪沢はちょっとややこしいことになっている。実際に行ってみると、紅簾石の産するところは悪沢橋が架かっている。ところが山と渓谷社の山岳地図ではここはワリ沢となっている。ここよりも上流にはワリ沢橋が架かっている。地図上では悪沢となっていて、沢登りのガイドでも悪沢として紹介されている。地図上の地名と、実際の地名が入れ代わっているのかあるいは「悪沢」と書いて「わりさわ」と読むのかは不明。

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