夏休みの匂い

 「夏休みの匂いがする」 知人がそういった。
 夏休みの匂いというのは、たしかに子供の頃あった。暑くて、ゆっくり時間が過ぎる夏の、長い一日の始まる匂いだ。
 大人になったからなのだろうか、時代が変わったからなのだろうか、ずっとこの匂いを忘れていた。けれど、最近、なにかの拍子にこの匂いに出会うことがある。
 蝉を採る子供ももういない。いや、蝉の鳴き声すら聞こえない。しかし、ふと、この匂いに出会うとき、自分の記憶の混沌に迷い込み、タイムスリップする懐かしい瞬間だ。