このころ私は1日バスが4本しか来ないような(バスがあるだけまだマシですね)岡山県の遥照山の上で、2週間仕事で滞在していました。そのちょうど途中過ぎに、山の暮らしに耐えかね(?)、気晴らしに下山することにしました。バスでふもとの山陽本線鴨方駅へ行き、そこから福山や香川県国分寺町へ行ったことはあるのですが、今回は山の反対側に下りて、平成11年1月11日11時11分開業した井原鉄道の矢掛駅を目指して歩こうと思い立ったのです。かつては鴨方から矢掛へ抜けるバスがあったようですが、今は廃止されてありません。ついでに、そろそろ髪がうっとうしくなっていたので散髪に行くことにしました。
さて、歩いて山を降りることは決めていたのだが、まず、鴨方側へ向かうのか、矢掛側に向かうのかも決めていなかった。鴨方へ向かえば、今日の行き先は文句なく尾道だ。一方、矢掛へ向かえば、今年開通した井原線に乗り、回り込んで鴨方へ向かうことになる。JRとの乗り継ぎ駅神辺駅ですぐ乗り換えずに途中下車する、という筋書きになるか。
駐車場のそばの自販機で、朝食といってはお粗末だがジュースを買う。さらに坂を降りると、鴨方と矢掛を結ぶ県道に出る。そこが運命の分かれ道になるはずだったのだが、駐車場の脇から出ている遊歩道の「矢掛町天然記念物・地蔵岩1.2km徒歩20分」の看板が目に入って足が向いてしまった。矢掛町天然記念物とかいうくらいだから、矢掛まで降りられるんだろうな、と思った。(普通思うでしょ?)
遊歩道の脇には、名前は知らないけど紫色の花がそこいらじゅうで咲いていた。入口付近で走ってる人とすれちがったので、この道、そこそこ人が通っているのかな?と思った。しかーし、そこからは誰とも遭わなかった。
やがて京都の大文字山を思い出させる小さな祠(ほこら)が見えてきた。そこに地蔵岩があるらしい。そちらへ向かう。林の中を通っていた先程とは違って、下界が一望できる。手前に離れ小島のような山がひとつあり、田んぼとの境目になっている道は鴨方からのあの県道だと思われる。その道の先の方に矢掛の町中が見えている。とりあえず山を降りたとしても、そこから井原線が通っているところまでは結構遠いようだ。
一方、反対側の祠の方には本当のお地蔵さまがあるだけである。…と思ったら、どうもその上の岩のことを地蔵岩と呼ぶらしい。植物が生い茂っているので、その形はよく分からない。どう見ても地蔵には見えない。あるいは山の下からだとそう見えるのかも知れない。岩の上に登れる階段があったようだが、崩れている。
さっき来た道とは別に、山上へ向かう道を示す看板があったので、そっちへ向かってみたが、(やや悪路)と括弧書きしてあったとおり、というかそれ以上に恐ろしい悪路で、30メートルも進むと、いやになって引き返した。うーむ、行き止まりか?さっさと帰るか?と思ったが、地蔵岩のすぐ手前に、「右 ○○○」とか道標があったことを思い出した。あそこに分岐点がある、もしくはあったのでは?
そこまで戻ると、たしかにそこから下りの道があったが、落ち葉が深く積もり、人通りは今までのルート以上に少なさそう。かなり迷ったが、いちおう行って見ることにした。 しかし、そこから先が大変であった。草が自分の背より高く延びて…なんて事こそなかったが、倒木が行く手を塞ぐ。飛び越え、またはくぐった倒木の数は十を下らない。私のいままでの「町歩き」とはあまりにも様子が違う。飴の包み紙が落ちているのを見て、人がここを通った気配が感じられて安心する、そんな感じである。
そして、最大の難関が現われた。3本の木が複雑にもつれて倒れ、道を塞いでいるのである。引き返そうかと2分くらい迷った。しかし、ここを乗り越えて、ここをくぐって…とコースを考えて、進むことにした。その前に、コース上に毛虫が一匹いる。こいつをちょっとどけて…と思って落ち葉ですくってよけようとしたら、けむりがでて、ポロッと落ちた。何かの木の雄花が転がっていただけだった。そこを乗り越えると、木が倒れていようと、もはや怖いものなし。
やっと目の前に家が現われた…と思ったら、家のすぐ近くなのに、また倒木である。やっぱりこの道、使われてないらしい。後ろを振り返ると、地蔵岩が見えていたが、離れて見ても…ただの岩でした(笑)。いろんなことがあったけど、下山には、のべ45分かかった。
散髪屋に嫌われたのでさっさと矢掛を出ることにする。もとの北へ向かうルートに戻る途中、石材店があり、何となくディスプレイを覗くと、なんと、ドラえもんの石像が!!これにはかなり動揺した。しかし、すぐそこで働いている人となんか目があってしまい、カメラを向けることができなかった。実は福山で売られているのを見たことがあり、そのときに写真を撮っていた。
矢掛駅に着いて、時刻表を見ると、たまたまちょうどいい時間に福山行きが来る。列車本数は1時間1本ペース。その横の運賃表を見ると、ちょっと高いなと思ってしまった。神辺まで720円也。がしかし、私は片道で乗るだけだから使えないが、1日乗車券は1110円で、どこかの町まで往復するだけで十分元がとれるような値段ではある。平成11年1月11日開業らしいから、1ならびはその辺のこだわりか。
井原線については、井原駅が最近の3セク鉄道にありがちなケッタイな建物であったこと、ローカル線のくせにほとんど高架だったことが目についた。列車は福山まで行くのだが、JRとの分岐駅、神辺で降りる。
あと30分くらい時間に余裕がある。いつものように本屋に行くことにした。そこで、ウインクなるタウン誌発見。早速購入。列車の時間が近づいたので駅に戻って、切符を買おうとしたら、いきなり警報音がなる。オレンジカードが詰まったのだ。福山行きの電車は本数があるけれど、その列車に乗らないと鴨方駅から出るバスの最終便につながらない。なんとか列車には間に合ったが、かなり焦った。
福山で乗り換えてから、購入したウインクを読んで過ごした。なんと、岡山版、備後版、広島版、島根・鳥取版と4つのエリアで違う紙面のものを発行しているらしい。桜の時期はもう終わってしまったけれど、3月下旬発売なのでお花見ポイントと、もう一つ、朝早くから開いているそれぞれの街の喫茶店、食堂が紹介されていた。
鴨方に着いてからは、1日4本のうちの最終便のバスに乗って山へ戻った(440円)。約1年前に買った井笠鉄道のバスカード(2200円分、つまりちょうど5回分)を使いきった。