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プラネタリウム初解説の時の原稿

2000年5月31日、私はプラネタリウム解説員としてデビューを果たしました。その時に書いていた原稿をここに公表しようというわけです。そのうち全部アドリブで話すことになるのですが、少なくとも最初の1年、星座が一巡りするまでは、原稿を書きながら、或いはそこまで行かなくとも、話の組み立てをまとめたものを書きながら、解説をやっていくことになるでしょう。

このページでは、今のところ星図など貼り付けて視覚的に星座などの紹介をして行こうという予定はありません。でも原稿の文章だけでは他の人が読んでもさっぱりわからないでしょうから、設定をまず示しておきます。

まずドームは、階段状に座席が並んでいて、皆が同じ方向に向いて座る傾斜式と呼ばれるタイプです(…ったって、実物を見たことがなければ何のことやらわからないですよね)プラネタリウムの上映の全体の長さは約50分で、前半はその日の夜の星空の生解説、後半はあらかじめ制作された番組(4カ月おきに更新)を流します。

上映の最初の部分ではおきまりの流れがあります。まずは非常口の案内などの前説、それからドーム内を少し暗くして、夕方16時ころの昼間の風景が西を正面として現われます。これから時間を21時ころまで(日の入りが早い冬期は20時ころまで)進めていき、日没から暗くなって星が出てくるまでのシーンを見せます。そして空を90度回転させ、正面が西から南へと変わります。方角の説明をしたあと、夜空が照らされる光害についての話をしてから、街灯りを暗くします。月が出ていたら、月も暗くします。空が暗くなってたくさんの星が現われてから、星空の解説へと入って行きます。星空の解説をしている時間は正味16、17分くらいでしょうか。

5月31日の天気は雨、月齢は27.3(21時には空に出ていない)でした。


((前説))

大変ながらくお待たせいたしました。本日は、○○○○(※施設の名前)へお越しいただき、誠にありがとうございます。

それでは、○○時○○分からのプラネタリウムの投影を始めるにあたりまして、3点ほどご案内を申し上げます。

まず一つめは上映中の出口のご案内です。場所はドームの前方の左右と、中くらいの高さの通路の左右となっております。「出口」と書いた矢印の先に緑色のライト(※非常口の灯りのことです。上映中は消灯)がついている場所が目印となっているんですが、おわかり頂けますでしょうか。

上映中にもしもご気分が悪くなってしまったなど、どうしても外に出たいときは、これらの出口を使って外に出ることができます。

中くらいの高さの通路の向かって右側の出口には、係の者が懐中電灯を持って常時控えていますので、ご用の折にはお気軽にお声をかけてください。

また、火事や地震など非常の際には、係の者が皆さんを安全な場所へと誘導いたしますので、係員の指
示があるまでは、慌てて席から立ち上がったりしないようにお願いします。

それから2つめ、ドーム内でのご飲食、カメラ・ビデオなどのご使用、おたばこはお断りしておりますので、皆様のご協力をお願いしたいと思います。

最後に3つめ、これ以降上映が始まりますと、ドームの中の灯りは足元も見えなくなるくらい真っ暗になってしまいます。上映中は危険防止のため、特にご用がなければ、むやみに席から立ち上がったりしないようにして下さい。それでは足元の灯りを落としまして、星空解説の方へと入っていきたいと思います。

((昼間の景色))

さあ、皆さんの目の前に景色が見えてきました。この景色は、○○○○(※ランドマークとも言える、とある建物)の屋上から見た風景です。正面に高く見えている建物が○○○○になりますが、その隣に赤い文字で西とあります。皆さんの正面は今、西の方角となっています。時刻は今日の午後4時頃に合わせてあります。ですから皆さんの正面に見えている丸いものは太陽ですね。 あいにく、今日は雨模様で、太陽は見えないようですね。

このプラネタリウムの太陽の明るさはかなり控えめなので、月かな?と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、人間の目が暗闇に慣れるのには、結構時間がかかるものなんです。ですから、いきなり星空が出てきても、星がよく見えませんし、逆に明るい太陽に出てこられては、皆さんが暗闇に目を慣らすことができません。そんなわけで、プラネタリウムの太陽は,ずいぶん控えめな明るさで輝いているわけです。

これから時間を進めていきますと、太陽はゆっくり沈んでいきます。それではさっそく、今日の日の入りの
様子から見ていくことにしましょう。
                                 
((日没スタート))

太陽がゆっくりと沈んでいきます。最近はずいぶん日が長くなって、真西よりもかなり北寄りのところで太
陽が沈むようになってきています。今日の日の入りは、岡山で19時12分です。
                
((転回スタート))

さあ、これから見る方角を変えていきましょう。皆さんの正面は、西からゆっくりと南の方角へと変わってき
ています。実際の空で言いますと、皆さんが左向け左で90度向きを変えているわけです。

あたりはすっかり暗くなって、空に星が見えてきました。時刻は今晩の9時頃になっています。 今日はあいにくの雨模様ですので、今晩は実際に星空を見ることは難しそうです。

((転回終了))

それでは、改めて方角をご説明したいと思います。今、正面が南となりましたから、こちら、皆さんの左手
が東、そしてこちら、右手が最初正面だった西の方角です。そして後ろが北になりますが、あいにく北の
空は少々見にくくなっておりますので、少し我慢して見て下さいね。

ところで、皆さんがお住まいの地域ではどれくらい星が見えますでしょうか。 ここ、○○市や○○市のような街中では、街の明かりが明るくなりすぎてしまったので、たくさんのお星様を見ることは難しくなってしまいました。しかし、空を照らしてしまうようなじゃまな灯り、街の街灯や工場の灯りがもしもすべて消えてしまったとしたら、 …まあ晴れていればの話になりますが、 私たちの頭の上には、いつでも美しい星空が広がっているのです。今日のプラネタリウムでは、特別に街の灯りには暗くなってもらって、満天の星空を皆様にお楽しみいただきたいと思います。

((北斗七星の紹介))

さて、ぐるーっと星空を見回して見ますと、天頂より少し北の方の空に、明るい7つの星の並びが特に目
につくのではないかと思います。このあたりにあるんですが(※北斗七星のあたりをポインタで指す)、皆さんお分かりになりますか?正解は、ここです(※北斗七星を結ぶ線を表示)。昔の中国の人たちはこの星の並びを水をすくうひしゃくに見立てて、北のひしゃくの七つの星と書いて、北斗七星という名前をつけました。今ではひしゃくなんて日常生活ではあまり使いませんから、スプーンのような形と例えた方がわかりやすいでしょうか。小学校の教科書にも出てきますし、街中の明るい空でも見えることがありますから、皆さん一度はご覧になったことがあるのではないかと思います。

((春の大曲線の紹介))

さて、北斗七星の星の並びは、春の星座を探すのにちょうどいい目印になります。この北斗七星のひし
ゃくの取っ手のほうを、その取っ手のカーブに沿って伸ばしていくと、まず、この明るい星(※アルクトゥルス)にぶつかります。もっと伸ばしていくと、この明るい星(※スピカ)にぶつかります。さらにもっと伸ばしていくと、決して明るい星ではないんですが、4つの星で形作られた四角形(※からす座)にぶつかります。北斗七星のひしゃくの取っ手の部分から続くこのカーブのことを、春の大曲線といいます。星空解説の前半は、春の大曲線が通っている星座について、北の方から紹介していきたいと思います。

((おおぐま座の紹介 ))

まずはスタートの北斗七星から。北斗七星は名前が有名ですので、ひとつの星座だと勘違いされている
方もいらっしゃるかもしれませんが、実は北斗七星というのは、おおぐま座という星座の一部で、熊の腰
からしっぽの部分にあたるんです。

ところで、このおおぐま座の星座絵なんですが、ずいぶん熊のしっぽが長いことに皆さんお気づきでしょ
うか。おおぐま座のモデルは、カリストという妖精が、月の女神アルテミスの怒りを買って、熊にされてしま
った姿なんです。熊になったカリストをふびんに思い、空にあげて星座にしようとした神々の王様ゼウス
が、しっぽをつかんで空に放り上げたので、しっぽが長く伸びてしまったのだと言われています。

((うしかい座の紹介))

さて次に、春の大曲線のこの一番目の明るい星は、うしかい座、牛を飼っている人という意味の星座の、
アルクトゥルスという1等星です。1等星の中でも、とりわけ明るいので、0等星と言われることもあります。
今の時期ですと、この星が夕方の空の一番星ということになるかと思います。

このうしかい座には、実ははっきりした言い伝えが残っていません。この人が一体誰なのか、わかってい
ないんですね。いろんな説があるんですが、天を支えていた神アトラスがモデルではないか、と言われて
います。しかし、このアトラスという神様が牛を飼っていたわけではないようです。このアルクトゥルスという
星の名前には、「熊の番人」という意味があるそうで、牛ではなくて、おおぐま座を見張っている人、という
ことになるのかもしれません。もっとも、星座絵を見るかぎりでは全然おおぐまの方を向いていないようで
すね。

((おとめ座の紹介))

少し南の方に進んで、春の大曲線のこの二番目の明るい星は、おとめ座のスピカという1等星です。おと
め座は星占いに出てくるので、名前はご存知の方も多いと思いますが、このスピカ以外には明るい星が
少なく、形をたどるのは難しいです。このおとめ座も誰をモデルにしたのかはっきりしていません。農業の
女神デーメーテールであるとか、正義の女神アストレアであるとか言われています。この女神様は、左手
に農業の女神であることを表わす麦の穂を、右手に正義の女神であることを表わす羽根ペンを持ってい
て、星座絵もどっちつかずになってしまっています。羽根ペンというのは、人の行いの善悪を書き記すた
めのペンなのだそうです。1等星のスピカは、麦の穂先の位置にありますね。スピカというのは「穂先」、
穂の先っぽという意味なんだそうです。

((からす座の紹介))

もっと南に進んで、春の大曲線の終着駅とでも呼べそうな、この4つの星は、日本では、船の帆にたとえ
られて、「帆かけ星」と呼ばれていたようです。ここは、からす座、という星座になります。このカラス、元は
太陽の神アポロンの使いで、輝く銀色の羽根を持っていたのですが、このカラス、実はうそつきでして、そのカラスがついた嘘にアポロンは激怒して、カラスの羽根を真っ黒にして、夜空に張り付けにしてしまいました。からす座の星々は、カラスを夜空に張り付けにするために打ち付けた銀の釘の姿なのだそうです。闇夜にカラスでは何も見えませんからね、もしかすると夜たまーに、カラスが星空から抜け出したりしているかもしれません。からす座は、この後の番組でまた出て来ますので、頭の隅にでも置いておいて頂けたらと思います。

さて、おさらいです。おおぐま座の北斗七星から、ひしゃくの取っ手の部分をずーっと伸ばして行って、う
しかい座のアルクトゥルスに、おとめ座のスピカを通って、からす座へ延びるカーブのことを春の大曲線
と言います。

((しし座の紹介))

さて、星空解説の後半は、ギリシャ神話の英雄ヘルクレスとそのヘルクレスに退治された化け物の星座
を紹介しましょう。

まずは、春の大曲線のついでで、もうひとつ、春の大三角、春の大きな三角形というのも覚えていっても
らいましょう。春の大曲線で出てきたうしかい座のアルクトゥルスと、おとめ座のスピカ、それともう1個の星を結ぶと春の大三角ができあがります。もう1個の星というのは、この星です。この星は、しし座のデネボラという星です。しし座は、おとめ座と同じく星占いに出てきますので、皆さん名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。このデネボラという星は1等星より少し暗くて、2等星になります。0等星のアルクトゥルス、1等星のスピカ、2等星のデネボラ、この3つの星が形作る三角形が春の大三角ということになります。

それでは、しし座の形をたどってみましょう。まず、この明るい星は名前をレグルスといいまして、デネボラより明るくって1等星になります。そしてこのあたりがししの頭、もしくはたてがみといったところになります。ししのたてがみの部分とレグルスで、ハテナマークをひっくり返した形に星が並んでいます。そしてレグルスからこのように前足が折りたたまれていて、レグルスを含む4つの星で形づくられた長方形がししの胴体に当たります。デネボラというのはしっぽという意味で、その名の通りししのしっぽの位置にあります。ですからデネボラと胴体の星を結んだこの三角形がししのお尻の部分にあたります。そしてこの星から後ろ足が伸びています。

このししはネメアの森というところに住み着いていた気性の荒い人喰いライオンで、ヘルクレスの最初の
冒険がこのライオン退治でした。このライオンは鉄よりもかたい皮膚を持っていたので、矢を放っても、剣
で斬りかかっても、こん棒で殴っても、びくともしなかったそうです。結局、ヘルクレスは、素手でライオンの首を締めてやっつけたということです。

((ヘルクレス座の紹介))

さて皆さん東の方の空をごらんください。ライオンをやっつけたヘルクレスが、星座となって東の空に姿を
見せています。でも、逆立ちしていますね。このヘルクレス座、「逆立ちの巨人」なんてニックネームで呼
ばれたりしています。ヘルクレス座も形をたどってみましょう。アルファベッドの大文字のHの形に結ばれ
た6つの星を胴体として、この星が頭です。あとは胴体の4隅の星から手足となるくらい星を結んでいくとヘルクレスの姿が現われます。

というわけで、以上、ヘルクレス座とヘルクレスに退治されたしし座を紹介しました。

((締め))

さて、これで今夜の星空解説は終わりなんですが、先ほどの話で出てきたからす座、どこにあるか覚えてますか?(※からす座の星座絵を点灯)このからす座の下の方、地平線よりも下になりますが、そこにはみなみじゅうじ座、つまり、南十字星が隠れています。これより○○○○のマスコットキャラクター、○○○○が皆さんを南十字星が見える場所にご案内いたします。それでは、「○○○○○○(※番組名)」の番組をご覧ください。
 
((星空解説終わり、以降、番組の上映を開始))
 

参考文献

「星座ガイドブック 春夏編」藤井旭 著/誠文堂新光社
「星座神話クラブ」脇屋奈々代 著/誠文堂新光社
「星空ガイド」沼澤茂美・脇屋奈々代 著/ナツメ社


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