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ディープ・インパクトの実際

 2002年6月、なかなか衝撃的なニュースが発表された。

=(ニュースはじまり)=

 米ニューメキシコ州にあるリンカーン研究所地球接近小惑星調査グループ(LINEAR)などによると、最大直径120メートルとみられる小惑星が6月14日、地球から約12万キロの距離まで異常接近していたことが分かった。この距離は月までの距離の約3分の1にあたる。

  この小惑星は、最接近から3日後の6月17日に初観測され「2002MN」と名付けられた。小惑星は秒速10キロで移動。もし地球を直撃した場合、東京都とほぼ同じ広さ2000平方キロの樹木をなぎ倒した1908年のロシア・シベリア地方のいん石落下の被害と同等程度になる恐れもあった。

=(ニュースおわり)=

 このニュースをできるだけ簡単に解説して、ついでにいろんな状態を仮定して計算して数字を弄んでみようというのがこのページの主題である。そんなに難しい計算はしませんから。

 まずは用語の解説から。小惑星という言葉といん石という言葉が出てきますが、ほぼ同じモノです。地球と同じように太陽の周りをまわっているけど、スイキンチカモクドッテンカイメイの9つの惑星より小さな星のことを「小惑星」といいます。(そのうちの一部には氷が主成分でしっぽを持っているものがあり、それを彗星とかほうき星と呼んでます。)このうち地球に落ちてきちゃったものを「いん石」と呼びます。主成分が鉄などの金属のものは「いん鉄」ともいいます。

 小惑星のほとんどは火星と木星の間にいますが、そこ以外にも拡がっていて、ときには地球の近くを通ったり、地球に落ちていん石になるものもありました。今回発見されたという「2002MN(2002年6月後半のうち13番目に見つかった小惑星という意味)」という小惑星がもし地球に落ちていたら、大都市一つが完全に破壊されるような大惨事になった可能性がある、ということです。もしそれがどこかの国の首都だったりしたら、国家存亡の危機ということになるでしょう。経済の面からいえば世界的に大変なことになってしまうかも。もちろん、地球上には密集した大都市よりも海か砂漠か密林か高山か、なーんにもないところが多いわけで、ニュースによると1908年にこのクラスの大きないん石が落ちたけど、シベリアだったんでどーってこともなかった、ということです。

 リンカーン研究所なんたらというのは、そういうヤバそうな小惑星=地球接近小惑星を捜索する作業を引き受けているところです。その捜索の副産物としてかなりの数の彗星を発見していて、複数のLINEAR(リニアー)彗星が誕生しています。紛らわしい :-( で、今回ニュースになったのは、かなりの被害をもたらす可能性がある小惑星が接近してきたのに、ぜーんぜん気づかなくって、最接近を過ぎてから見つけちゃって冷汗モノでした、ってこと。もし地球と正面衝突していたとしても気づかなかったかも、ということだから。

 月までの距離云々というのはあまり重要ではありません。だってぶつからなかったんだし ;-) もうちょっとまじめに考えると、地球から月までの距離は地球の半径の60倍。直径60cmのダーツの的があって、その中心に直径1cmの赤い点があったとしましょ。目隠しして、つまり中心の赤いトコロを狙わずにやみくもにダーツして、中心の赤いところに刺さる矢は、面積から考えると的全体に刺さった矢3600本につき1本しかない。月より近い小惑星のニアミスが3600回あっても1度しかぶつからないのだ。安心しました?ただこのニアミスというのは2、3年に一度起こっているし、もしかすると気づかないままどっかに行っちゃったニアミスも少なからずありそう。

 どうしてニアミスを見逃したか?それは見えないからなのです!ここで星の明るさの尺度というのを紹介しましょう。星の明るさは何等、と等級で表わします。1等は2等よりエライから、数字が少ない方が明るいのです。5等違うと明るさが100倍違うと決められているので、1等分の明るさの差は2.51倍くらいになります。

−27等 太陽
−13等 満月
−10等 半月
−7等 三日月
−5等 金星
−3等 火星、木星
0等 おりひめ星=ベガ(これが基準)、土星
1等 ひこ星=アルタイル
2等 北極星、北斗七星のうち6つの星
3等 倉敷の街中から見える星の限界
4等 アンドロメダ銀河
5等 美星町から見える星の限界
6等 理想的に空が暗いところから見える星の限界、天王星
8等 海王星、最大級の小惑星セレス
14等 冥王星

 さて、小惑星惑星や月と同じように、太陽の光を反射して輝いています。なのでその明るさは、

1.太陽から近いほど明るく、遠いほど暗い。距離が2倍になれば、明るさは4分の1。
2.地球から近いほど明るく、遠いほど暗い。これも距離が2倍になれば、明るさは4分の1。
3.太陽からの光を反射する効率(横文字でアルベドといいます)がいいほど明るい。効率が2倍になれば、明るさも2倍。
4.小惑星の大きさが大きいほど明るい。大きさが2倍になれば、明るさは4倍。

となります。1.というのは、太陽からの距離が2倍になると、太陽を見たときの大きさが半分になるので、太陽の面積が4分の1になるということです。(この説明は厳密には間違ってるんだけど、直感的に話を進めるということで。)2.と4.も面積がらみのことで同じようなものです。3.については、例えば地球は月よりも太陽光をよく(6倍も!)反射します。海のせい…たぶん。

 実は1.は気にしなくていいです。太陽から地球までは1億5千万km。これに10万kmや30万km足し引きしたところで、微々たるもんでしょ。3.については、小惑星の材質は月と同じということにしましょう。まさか海はないだろうし :-)

 地球からの距離12万km(地球から月までの距離の3分の1)、小惑星の大きさは120m(月の14000分の1)、なので計算すると小惑星の明るさは月の2千万分の1。満月と比べるとこの星の明るさは6等ということになる。やっと目に見えるかどうか。太陽からの光の角度の兼ね合い(つまり地球から見て小惑星が満月状態か半月状態か三日月状態か)で、もっと暗くなってしまう。それに小惑星の見える方角が太陽に近い(つまりは新月状態)と全然見えない。

 さて、われわれが昨日までそこにいなかった6等の星を見ても全然気づかない訳で、われわれ星を見慣れている人でせめて2等、経験問わず空を見上げた人全員が危険な星に気づくには−2等くらいの星が突然現われて、「あれ、何だあの星は?」となるはず。2等の星になるには、もう6分の1くらい近づいてもらわないといけない。6分の1というと地球からの距離は2万km。…地球の直径が13000kmくらいというのに!今回の小惑星は秒速10kmで動くというので、30分後には地球と激突である。−2等なんて状態になるのは、地球から3600km、衝突6分前だ…今さら何ができよう…ご愁傷様 :-(

 6500年前、地球に激突し、恐竜を絶滅に導いたいん石は、直径が10km位あったらしい。これくらいなら月くらいまでの距離でも−1等。これならだれでも十分見えるか。そして1200万km離れている時に6等の明るさ。1200kmというと衝突14日前だ。たしか映画「アルマゲドン」って、衝突17日前に小惑星を見つけちゃうんですよね。それに近い状態ですが、実際にはどこまで対策が取れるかどうか。

 ここで改めて、意図的に触れていなかった項目があるのですが、それは小惑星の速度。地球が太陽の周りを回っているのは皆さんご存知の通りですが、そのスピードって実は秒速30kmもあるのだ。小惑星たちも同じような速さで動いている。だから地球が動く向きと小惑星が動く向きが、「追突型」か「正面衝突型」かで、地球から見た小惑星の速さが全然変わってしまう。今回ニュースになった件では秒速10kmとなっていたから、追突型でスピードが実際より控えめになっているのだ。運悪く正面衝突型なら猶予の時間は6分の1になりかねない。

 衝突の頻度…例えば恐竜を絶滅させたようないん石が確率的に何年に一度落ちるのかという話は今回は省略しましたが、なにせ物騒な話だということはわかっていただけたと思います。衝突を防ぐ為にはニュースにも登場したリンカーン研究所のようなところに頑張って監視してもらわないといけないわけです。日本にも岡山県美星町に同様の施設があります。美星スペースガードセンターというちょっとカッコつけすぎ?な名前です。今まで役に立たない学問といわれてきた天文学が、もしかすると全世界の人命を救うかもしれない。興味がある方は美星町を訪れるなり、日本スペースガード協会のホームページをご覧になるなりしてみてください。



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